半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『アナキズム入門』森元斎

オススメ度 90点
森元斎本人に魅了され度 90点

アナキズム入門 (ちくま新書1245)

アナキズム入門 (ちくま新書1245)

アナキスト、という分野は、政治活動としても、学問としても、現代日本ではほぼ死に絶えた系譜だ。
日本では、左翼思想の大方は、共産主義に収斂され、共産主義勃興の時代にソ連などの国家共産主義と学問的な覇権を争ったアナキズムは、結局20世紀の闘争に破れてしまった。
私もジョージ・オーウェルの「カタロニア賛歌」とかでしか触れたことはないが、西側諸国のインテリゲンチャがかぶれた左翼思想は、どちらかというとアナキズムですよね。そうした風潮というのは、米ソ冷戦の時の赤狩りでほとんど絶滅してしまった。
本来マルクスが説いた資本主義の発展段階として、次にくるべき共産主義というのは、ソ連や中国のような国家共産主義ではなく、どちらかというと自由な思想を是とするアナキズムだったはずだ。

共産主義も完全に思想的な鮮度を失ってしまった21世紀、アナキズムを振り返ることは、アナクロニズムでもあるとは思うが、
だが、実は、今のテクノロジーだったら、アナキズムはうまくいくんじゃないか、という気もする。

そういう意味では、この保守反動思想の本と、ベクトルは全く違うが、今となっては打ち捨てられた思想潮流という意味では同じだ。
halfboileddoc.hatenablog.com

アナキズム、そういう意味では古くて新しい概念だと思うが、
この本は、アナキズムの歴史を振り返る本。
どっかのWeb書評で賞賛されていたので買った。確かに、思想の歴史的な紹介という教科書的な話なのに、ブコウスキーのようなロッキンな文体。
ちくま書店っぽさ、ゼロ。ちくまにあるまじき読点の多さ。森本レオの語り原稿…いや、講談師の話のようだ。
リズムがいい。

専制主義国家にとって、民衆に人権などは、ない。気に食わなければ殺す。法律なんてあってないようなものだ。ひどい、ひどすぎる。しかしここで死に絶えるわけにはいかない。彼は決してあきらめなかった。(中略)
というのも、素直に読むと、あのバクーニンが、皇帝に対してごめんなさい、許してください、とひたすら書いてある反省文にしか読めない。転向したのかバクーニン、裏切り者め、と思われるかもしれない。

というわけで、かなりお堅く馴染みのない分野なのに、するりと読めた。
これは、わかりやすく説明がよかった、というより、著者の情熱に引っ張られたような気がする。
この人の著作をもっと読みたい。

著作はまだあまりないようなので、頑張ってどんどん本出してくれたら頑張ってフォローします。

『離婚』色川武大

オススメ度 70点
元嫁のファムファタル度 100点

新装版 離婚 (文春文庫)

新装版 離婚 (文春文庫)

(装丁は以前のものでした)
Kindleセールで購入。
阿佐田哲也こと色川竹大の結婚にまつわる小説。多少自伝的な小説なのか。直木賞受賞。

離婚したところから話は始まる。ズルズルと続く関係。
気がつくと、付き合い始めた時に「あたしあなたのお妾になりたいの」とお互いに独身だった頃に女が発したセリフに、男は「こいつは天然だなあ」と思わされたのだが、気がつくと結婚後数年を経てまさにそのセリフ通りといってよい関係になってしまった。
出会った時の何気ない女のセリフに、関係性の全てが予言されているという恐怖というか人生のおかしさというか。
 小説のポイントを一言で言うと、そういうやつ。

婚姻という社会制度と、男女の関係というパーソナルなものって、そりゃ解離しやすいもんだ。
昭和の高度成長期、田舎の因習的な風習では女性は処女で嫁ぐという価値観が濃厚だった時代だけど、都会にでて親の監視のなくなった娘たちは、今と同様にまあまあ遊んではいたらしいね。こういう小説が流布していたら、そりゃ親御さんは娘を都会にやりたがらずに田舎に留めおきたかったわけだ。
それより昔は子ナシの別れた女に対しては一年の扶養義務があるんだ…
これは社会通念だったということ?どうもよくわからない。
この本は市井の生活を虫瞰的に納めたものだから、その時代のコモンセンスがよくわからない。生きてないし。

前作に当たる少女達と交流する話が末に収められているが、読者はこいつ羨ましいな、と思ったに違いない。
僕も羨ましい。
若い女性に、慕われたい。
なんか小田原ドラゴンtwitterみたいになってますけど。

個人的な話だが、私の妻は、この作中の嫁とは全く逆の、計画性があり、感情的な安定度が抜群な社会人としてまともな人なので、こういう社会人としてはむちゃくちゃの女性、猫か犬かでいうと猫、いや猫ですらなくてやたら金のかかる愛玩動物のような女性の放つ魅力というものを味わってみたい気がする…とミッドライフクライシス気味のおじさんは思うのでした。多分味わわないけど。

『読書の技法』佐藤優

オススメ度 90点
甘えと妥協がないクールさ 100点

読書の技法

読書の技法

読書に関する本、思い起こせば随分読んできた。
単純に読書の効用を解く本なんて、すでに書痴といっていい僕には大して意味もないのに。
halfboileddoc.hatenablog.com
halfboileddoc.hatenablog.com
halfboileddoc.hatenablog.com
この辺りは、ナイーブな読書礼賛本。他にも多分10冊くらいKindleにあるけど、ポジショントークのようなものなので、あえて紹介はしない。

halfboileddoc.hatenablog.com
乱読して、全然別の分野の本を合わせるとイイヨ!的なやつ。
きゅうりとハチミツ一緒に口の中にいれるとメロンになるよ!みたいなもん。
知のメロンをゲットできればいい。なんだそりゃ。
halfboileddoc.hatenablog.com
この方は、もともと全然本を読まないのに作家になったという人。
これは単純な読書礼賛に対するアンチテーゼの意味あいが強い。おもしろい。
halfboileddoc.hatenablog.com
一読者としてのアツい思いもあるけど、辣腕編集者として、本を送り出す側の思いと半分は自伝。

* * *

この本に話を戻しますね。
佐藤氏はおなじみの外務省ノンキャリアから対ソ戦略のスペシャリスト。国家方針の転換の巻き添えを食って刑務所に入り、そこから著作家になった人。もともと読書家でもあるのだが、諜報の一環として多量の資料を読み込む必要があることから、多読家にもなった。

単純に「読書イイヨ!」という本ではなく、本を読む人たちにむけて、もう少し本の読み方を指南する本。上級者から中級者にむけての本だ。

  • 今佐藤氏は一ヶ月に300冊くらい目を通している。が、熟読できる本は月3〜4冊くらい。これをあと2冊増やすのは簡単ではない。
  • 速読では、知っている事項を読み飛ばして、新たな情報を拾い集める。それなら5-20%の部分しか読む必要はない。
  • 知らない分野の本は超速読も速読もできない、というのは速読法の大原則だ。
  • 「簡単に読める本」「そこそこ時間がかかる本」「ものすごく時間がかかる本」の3種類がある。
  • 新しい分野の基本書は3冊・5冊と奇数本買うのがよい(見解が別れる場合、多数決にするから)
  • 本は真ん中辺に弱点(翻訳が荒れたり、論理構成が雑になったり、作者・翻訳者がスタミナ切れする部分)がある。そこを読むと本の水準を知ることができる。
  • 知識は頭で覚えるものだが、体に覚えこませないと意味がない分野の勉強がある(テクネー)。例えば高等数学や語学のようなもの。こういう知識は本を読んだだけでは体得できない。計画に十分時間的余裕をもたせないといけないし、自分で鉛筆を動かして作業をしないと身につかない。

と、まあ「ただ本を読んでいればOK」というレベルから一段上の、どのように、本を選び、読み、さらに学習を深めていくかについて、かなり実践的なことがかかれている。いわゆる「本好き」から「本を使って学習する人間」へのステップになっている。

私も、現在は社会人の本読みにすぎない。いろいろなところから情報を仕入れて取捨選択しているけれども、知的なバックボーンは、学生時代に読んだ基礎的な哲学やそういう本など。要するにOSは若い頃のままで、HDに新たなファイルをいれているだけだ。
この本は、そういうOS作りに役立つ本だと思う。こういう作業はしんどいので時間のある学生のうちにすませておきたいものだね。

今僕は、一日に一冊本を紹介する、というのをやっているけど「簡単に読める本」に偏りがちであるなあと思った。実際、そこそこ時間がかかる本で、感動した本というのは、さらりと紹介するようなものではないのだ。「サピエンス全史」とか「ホモデウス」なんて、去年の9月からこのBlogの下書きにいれているけど、感動が大きい分だけ、紹介できないものだ。
来年以降は、この「一冊紹介」のモードも変えていく必要があるかもしれない。

出世するうえで重要なのは、自分の生活習慣から他人に嫌われるような要因を少しでも除去することである。そのためには自分がやられて嫌なことを他者に大してしないということが基本だ

だから、図書館で借りた本に書き込みをしたり、電車で場所をとって作業するとか、そういう迷惑なことはやめときんさいよ、と。
こういう、みたいな金言がひょっとでてくるから侮れない。
随所にキラリキラリと光るところが多い、いい本だと思う。

Wataru Hamasaki and Shigeo Fukuda, ”Rachel's Lament”

オススメ度 100点

レイチェルズラメント

レイチェルズラメント

浜崎航さんは、名古屋市大の医学部を卒業後、プロミュージシャンの世界に進んだ方。今では日本を代表するサックスの一人になった。
プライベートでは、海を愛し、車を愛し、最近はゴルフも愛している。
福田重男さんは、重鎮のピアニスト。洒脱、という言葉がもっともよく似合うジャズマンだろう。
伊達男二人の共演盤。

この前レコ発記念ツアーに来られていて、ライブも聴かせてもらった。
福田重男さんの、高度なインプロヴィゼーションでありながら、同時にぬくもり感もあるフレーズとボイシング。浜崎さんは、クラシックのサックスか、とも思える艶のある音色に驚かされる。ときにやさしく、ときに激しいフレージング。持ち替えたフルートも、軽やかに音を紡ぐ。二人なのに、二人だからこそ、広がりと余白を感じるサウンドである。

いや、堪能しました。すごかった。

Tom Harrellの"Sail Away"とRoland Hanna "Wistful Moment"、Bill Evansの"Comrade conrad"というゲキ渋のスタンダードと、あとはオリジナル曲。浜崎航のアルバムは、基本的に、選曲の偏差値が高い。
海に関する曲は、フルート指数が高かったなぁ…とは思いました。

Stan Getzも好きな浜崎氏は、Kenny BarronとStan Getzの"People Time"などがロールモデルにあるのかもしれない。
ピアノとのデュオアルバムが意外に多く、キャリアの要所要所で、PianoとのDuo盤をいくつも作っている。

The Single Petal Of A Rose

The Single Petal Of A Rose

イン・ア・センチメンタル・ムード

イン・ア・センチメンタル・ムード

これまた若手の俊英、片倉真由子と、Duke Ellingtonの曲ばっかりやるユニットを数年前からやっているが、今までアルバムは二枚でている。
どの曲も二人のピリピリとしたテンションが感じられ、非常にききごたえがある。

I'm Through With Love

I'm Through With Love

  • アーティスト: 堀秀彰&浜崎航 DUO,Hideaki Hori & Wataru Hamasaki DUO,堀秀彰,浜崎航
  • 出版社/メーカー: BQ Records
  • 発売日: 2012/05/17
  • メディア: CD
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これまた若手の盟友、堀秀彰さんとのDuo。
堀秀彰と浜崎航は、これまた強力なリズム、高瀬裕、広瀬順次の四人で結成した”Encounter”というバンドで活動している。ワンホーンのカルテットという古典的な編成ながら、ジャズにあまり馴染みがない層にも訴求すべくサウンドを追求しているバンドだ。僕も「あんまりジャズ馴染みないんですぅ〜」という女子には、とりあえずEncounterを紹介している。わかりやすくカッコいいからだ。
このアルバムは堀さんらしさ、浜崎さんらしさが、またEncounterとは別の形で発露した好盤だ。選曲もよく、アルバムの雰囲気もよい。
halfboileddoc.hatenablog.com

Conversation

Conversation

こちらは、活動初期に作られたもの。日本在住も長い渋いピアニスト Philip Strange氏とのDuo。
スタンダード多めで、まだ発展途上感はあるが、やはり素晴らしい。

『9つの性格〜エニアグラム』『9タイプ診断』

オススメ度 90点
設問の個数が多いのは唯一の弱点度 100点

人間は9タイプ 仕事と対人関係がはかどる人間説明書

人間は9タイプ 仕事と対人関係がはかどる人間説明書

9つの性格 エニアグラムで見つかる「本当の自分」と最良の人間関係 (PHP文庫)

9つの性格 エニアグラムで見つかる「本当の自分」と最良の人間関係 (PHP文庫)

職場の人間関係のMatchingに関するツールというのは色々あるわけです。
世界的に有名なのはMTBI(Myers-Briggs Type Indicator)というやつ。
ちなみに地元で躍進した有名なスーパーでは「霊長類4分類」というので、全職員を診断し、チーム作りに役立てているとか。

我々もそういうのをなにかできないかと思い、「ビリギャル」で有名な坪田氏が提唱している9タイプ診断、そしてその9タイプの源流となるエニアグラムの本に行き着いた。

一読すればいいと思うが、基本的にはこれは自己分析・自己省察のためのものと考えればいい。
いわゆる性格診断というよりは、自分の優先順位を、どこに依拠しているのか、思考なのか感情なのか本能なのか、でわけているらしい。
まあ、どの社会でもこの9タイプは均等に存在する、ということを言っているが、それはどうだろうか。

坪田氏の9タイプは、厳密にいうと「エニアグラム」とは異なるようだが、思想としての厳密性よりも「使いやすさ」を優先しているのでとりまわしがよい。エニアグラムの9タイプと、坪田氏の9タイプは、番号とかその辺は共用でやっている。

うちの職場でもこれをやり始めており、現在500人中70-80人くらいがこれをやっている。
医療機関という特性からなのか、当グループでは、「献身家」(タイプ2)・「堅実家」(タイプ6)がやたらと多かった。

私はタイプ5=研究者タイプだった。なんだ、そうか。
hanjukudoctor.hatenablog.com
こういうエントリは、タイプ5ならではの心情に基づいて書かれていたわけだ。

『魔法のメス力』神崎メリ

halfboileddoc.hatenablog.com
「ハッピーエンドを前提として」の作者が本でとりあげていた神崎メリの本を読んでみた。

これは、まあ「ハッピーエンドを前提として」と同じで、婚活する女性向けの本だったりします。
だから自分には関係ないっちゃあないんですが、「敵を知り己を知れば百戦危うからず」精神で購入。百戦ってなんだよ(笑)

本の内容ですが、
「ど本命」として扱うときと、それ以外だったら、男の態度は違うよ、という身も蓋もない本。

この本が言っていることは本当だと思う。「ど本命」で、絶対この女を幸せにしたい、と思っている場合と、「まあ結婚してもいいかな」くらいの対象では、男の態度は全く違うわけです。この「不都合な真実」によって、

なぜ、長年付き合った彼女と別れて半年後にやたら若い女と結婚するのか、という男の謎行動に対する明確な説明になっているわけです。
ま、男からしたらそうだよな。言わないだけで。

だから、そういう「ど本命」になることを目指しましょう、というのがこの本の内容。

ええんちゃうかな、とは思うけど、ただ、これだと、10%くらいの男女しか結婚できないだろうな、という気もする。
逆にいうと、幸せに満ちた結婚生活なんて、2割にも満たないだろうし。

妥協に満ちた結婚生活をよしとするか、どうか。それで、この本の真価が問われるでしょうね。

いい本だとは思いましたけど、装丁については、Tiffanyに怒られないだろうか、とは思いました。

『アステロイド・マイナーズ』あさりよしとお

オススメ度 90点
未来の小市民のディストピア度 100度

アステロイド・マイナーズ(1) (RYU COMICS)

アステロイド・マイナーズ(1) (RYU COMICS)

アステロイド・マイナーズ(2) (RYU COMICS)

アステロイド・マイナーズ(2) (RYU COMICS)

プラネテス』は宇宙時代の一市民の生活をリアルに切り取った描写と、熱い心の発露が素晴らしい漫画だった。

プラネテス(1) (モーニングコミックス)

プラネテス(1) (モーニングコミックス)

対してこの『アステロイド・マイナーズ』も同時代、宇宙黎明時代の、一市民の生活を、同様にリアルに切り取った漫画だ。
なおかつ、プラネテスにあるアツさや上昇志向がない、ぬるい宇宙生活を描いた漫画だ。
いや、一市民というよりは一プロレタリアートか。

考えてみると、たとえば僕が子供の頃。20世紀、昭和40年代から、今生きている2019年をみると、これは未来の世界に生きてる。

でもすべてが未来っぽい生活ではなくて、たとえば、米を研いだり、トイレが詰まったらシュポシュポやるやつでなおすし、年賀状の整理をしたりする。吉野家に行ったりサイゼリヤに行ったりする。考えてみれば、庶民の一膳飯屋なんてどの時代もおんなじようなもんだ。パソコンを使っていたって、不要なメールを確認しては捨てたり、別に、すごい未来っぽいことをしているわけではない。

そういう僕らのしょうもない生活をさらに未来に移動した、「リアルな宇宙生活」を描いたのがこの作品。
特に宇宙もしくは小惑星では、水・空気、排泄物の循環など、地球では意識しなくてもいい部分も人工的に構築せざるを得ないわけで、そういうリアルさが、宇宙生活の厳しい現実を思い知らされる。

まんがサイエンス』でわかりやすい説明の技術もあるので、重力の井戸の話とか、そういうのの説明も上手。