半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『読書の価値』森博嗣

読書の価値 (NHK出版新書 547)

読書の価値 (NHK出版新書 547)

すべてがFになる、で有名な森博嗣。もともとは工学系の大学教員であったところから、作家に転身し、現在はセミリタイヤという状況。
この人のすごいところは、いわゆる本好きとかの生い立ちではなく、むしろ本などほとんど読んだことがないところから、生業として小説家を志向し、みごとに成功したことだ。
その意味で、対象物に対して冷徹で醒めた視点を失わずに済むのかもしれない。
酒の飲めないソムリエ、ゲイのファッションデザイナー、みたいなものか。

森氏の前半生の読書遍歴がこの本で語られる。
実は氏は遠視で、ピントがあいづらく本はなかなか読めなかったらしい。実用書に傾倒し、小説は好きではなかったが、エラリィ・クイーンのXの悲劇で、小説の面白さに少し触れることができた、という話。

推理小説は物語から「学べる」というものではなく、単に物語が「おもしろい」という機能を持った本。今ならそれを「エンタテインメント」と呼ぶだろう。


大学の教員の時分に、他人の文章を校正する業務をしていた頃、文法的にまともな文章を書ける人はそう多くはないということに気づいた。(学生でも、社会人でも)、しかしある時期から、社会全体の文章力が上がったように感じられた。おそらく大学受験に「小論文」が採用されたからじゃないかと森氏は推測する。
ただ、体裁は整っていても、何がいいたいのかわからない文章が増えてしまった、ということらしい。

それ以外にも、教員生活、作家生活を通じて感じた「読書」というものにまつわる諸問題が、クールなトーンで語られる。
書痴、みたいな人ではないので、読書に対するえこひいきがないのがいいよね。

そんな彼でも、いろいろなことを実際に体験するのには限界があるから、他人の経験を効率よく自分の中に取り入れるには、読書がもっとも効率がいいよな、という結論には達している。
アウトプットをすると、データが強力に頭の中に残る。その意味でも、文章を書けることは実生活で役に立ちますよ、とも。読書はインプットだが、アウトプットをした方が、より知識が自分のものになる、と。

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自分と読書の関わり。ふうむ。
こんな読んだ本とか紹介するBlogやっていることからわかるように、私は速読・濫読家のたぐいで、だからこそこういうタイトルの本に惹かれてしまって買ってしまい、全く読書習慣に毒されていない森氏のクールな言説に、ちょっとへこんだりするわけだが。
世界の捉え方が、そもそも本から入ったんだと思う。