半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『性と欲望の中国』安田峰俊

性と欲望の中国 (文春新書)

性と欲望の中国 (文春新書)

中国の性に関する歴史。
もちろん、4000年の性の歴史ではなくて、ここ最近の、中華人民共和国の、それも20世紀末から21世紀の話に限ってのレポートである。

共産主義国家としての中華人民共和国の黎明期は、伝統的な中国の「一夫多妻制」「売買婚」を一掃し、潔癖な国家となっていたらしい。
文化大革命で、この清浄化は一掃すすみ、ここである種の文化的な断絶が起こった。
1978年から改革開放政策が始まって、そこから経済発展につれて、他国のマネー流入による発展の影で、性風俗や飲食業が発展してゆくことになる。
2012年習近平政権から、厳格化された、という経緯。


経済発展期、ある種のバブル景気の時の風紀の緩みは、日本のバブル景気、ノーパンしゃぶしゃぶ時代を彷彿とさせるものだ。

一人っ子政策のため、男性が3000万人多い。
女性が足りないため、自然の状態(一夫一婦制度で、結婚以外に性生活がない)では、社会紊乱が起こりかねないため、ドール(ダッチワイフ)などに関しては寛容なのは意外ではあった。

過激なものになると、皮をとったスイカの果肉に穴をあけてそこに男性客が勃起した男性器を挿入し、女の子がその周囲のスイカを食べる「過山洞(トンネル抜け)」、火のついたタバコを女の子の肛門に挿して電気を消し、女の子が部屋の中をウロウロする「蛍火虫(ホタル)」、全裸で寝そべった女の子体の上で、ボールに見立てたプチトマトを男性器で打ち、ヘソにホールインワンさせるという「高璽夫(ゴルフ)」、女の子の尿を入れたお酒(通称「神仙水」)お男性が飲んだり、男性器でかき混ぜたカクテル(通称「長寿酒」)を女の子に飲ませたりするなど、怪しい宴会芸の数々が存在したみたいです。

へー。
へー。
金持ちって、男の子ってバカよね。

ま、他にもいろいろ派手な遊びがあったようだが、習近平政権のもとで、こうしたご乱脈は取り締まられ、今はそういう派手なやつはないらしい。

著者は中国関係の記事取材には定評がある人で、今回はこういう尾籠なネタで、書くのが大変だったそうだ。
日本の性愛・風俗のプロが、中国にいって書いたら、また別の景色もみえてくるのかもしれない、とは思った。

『移動力』長倉顕太

移動力

移動力

このまえ「モテる読書術」という本を読んだ、長倉氏の本。
halfboileddoc.hatenablog.com

読書術って銘打っているけど、蓋をあければ人生術、みたいな本だった。

羊頭狗肉の逆だ。
ハムカツだと思って買ったら、衣の中にシャトーブリアン入ってたくらいの感じだ。

あたし、こんなこと書いていますけど(笑)。へんな褒め方!

今回の本はホリエモンの「多動力」に少しタイトルは寄せてきました。

とりあえず移動しろ!
引越しすらできないやつは人生がかわらない。
  という身も蓋もないアドバイスだけど、確かにそれがいいかもしれない。
多くの自己啓発本は、Incrementalismといいますか、最近は受け入れられやすくするために「スモールステップ」みたいなことを言いたがる。
この本は、もうカンフル剤。でも、そっちの方が荒療治だけど、うまく行くのかもしれない。

生活を変えようとしている人にとっては、いいとは思う。
もちろん、結果保証もないけれども。
まあ、生存バイアスの話なので、そのアドバイスに従った人が、総体としてハッピーになっているかどうかは、わからないけど。

意思決定でうだうだ悩んでいるよりは、まず行動した方が結果的にはやる気もでる、というのも心理学的には言われていますよね。

以下備忘録:

  • 「定住」のせいで能力は退化してゆく
  • 同窓会が好き、地元の友達とつるんでいるようなやつは、過去に行きているだけ
  • 会社員時代の「定住」「安定」という環境から飛び出してみたら、全く違う世界が目の前にあった
  • 人生をうまくいかせるにはその他大勢から抜け出すことが重要になってくる。そのときベストセラーを読んでいるようじゃその他大勢でしかない。ベストセラーを読むのではなく、ベストセラー作家が読んでいるものを読め。
  • 人生の豊かさは「選択肢の多さ」
  • 最善の選択ではなく「選択を最善にしよう」

『この地獄を生きるのだ』小林エリコ


高校では国語もトップだったような人が、ハードワーク、ブラック職場にて心折れて、
実家に帰り、引き込もりになる。

その後一人暮らしをしながら、生活保護で暮らし、ある精神科クリニックの広告塔になって、それを脱し、
編集者として再生するまでを書いたもの。

息苦しい人生のありよう、という意味では、『最貧困女子』とか『ブラック企業』とか、そういう社会派レポートの世界を実地体験、という感じだった。地獄めぐりだ。

最貧困女子 (幻冬舎新書)

最貧困女子 (幻冬舎新書)

halfboileddoc.hatenablog.com

物語(というか実話なんだが)、の中盤に、精神科のクリニックがでてくる。
商売上手な開業医で、皮下注射の統合失調症の新薬の広告塔的な役割をしていたり、そのおかげで、製薬会社主催の講演会に、患者として呼ばれて美味しいものを食べたり、という体験がでてくる(オイオイ……)、あと、デイサービスというか、障害者支援事業としてパン屋を作って店員として患者を勤めさせたり。まあいろいろ確かにアクティブだなあと思う。
クリニックの先生としては、どうせ生保の精神科患者なんだから、うまいもんでも食わせて旅行をさせてやったら喜ぶやろ…みたいな感覚もあるとは思う。(筆者からの視点は完全にそう)。
それも、まあしゃあないんちゃうん?という気もしたが、
この筆者のえらいところは、そういう贅沢と自分の尊厳を天秤にかけて、
贅沢と訣別したところ。
そして、自由を得られたところ。

そういうのえらいよな、と思う。
みなができるわけではないもの。

「人はパンのみにて生きるにあらず!」

小ネタ集

いいかげん、Kindle日替わりセールで手塚治虫の中編の一巻だけ99円セールにのせられるのやめようと思う。
結局3〜4巻まで読む羽目になるし、全然割安じゃない。

『MW』 手塚治虫

MW 1

MW 1

ピカレスク漫画とでもいいましょうか。毒ガスによって、大脳を侵され、良心を失った美貌青年の話。
手塚的な漫画で、手塚治虫こそ良心を取りさって登場人物に縦横無尽の行動をさせるのが上手な漫画家もいるまい。
三巻で終わり、映画とかにもしやすそうなまとまった筋。

『紙の砦』 手塚治虫

紙の砦

紙の砦

主人公が若い時の青年手塚治虫。ストーリーはフィクションのようだが、戦時中から戦後の混乱期の漫画青年のエピソード。
甘酸っぱい話、残酷な話などいろいろだが、青春ゆえのほろにがさがある。

働く女のモテルール

結果を恐れずに恋愛しよう、とか相槌のバリエーションを駆使して会話を盛り上げよう、とか、恋人の前に大事な友人を作ろう、とか、
都会に生き、普通に働いている人の恋愛のTips。
軽くて読みやすいけど、実際有益な情報が詰まっているかというと、どうか。

『アポロの歌』 手塚治虫

アポロの歌 1

アポロの歌 1

冒頭いきなり、みこすり半劇場並みの、精子が主人公。
愛を知らず生まれ育った主人公が、罰を受ける。
何度でも同じ女に出会い、愛しあうまえに死ななければならないという地獄。
火の鳥の習作のようなやつです*1

俺の現実は恋愛ゲーム?かと思ったら命がけのゲームだった

なんか漫画アプリの宣伝になっていたので、買ってしまったやつ。
構築的なストーリーではなく、其の場しのぎ感はあるが、その分スリリングっちゃあスリリング。『ライオン仮面』っぽさあり。

剥かせて竜ヶ崎さん

爬虫類の女性に対して、脱皮した皮に執着する、という男性。
これはあれですね、フェティシズムの応用編って感じですね。


『だがしかし』

最終巻をみたくて、1、2巻と最終巻だけ、僕のKindleにはあります。
駄菓子という題材で、しっかりとストーリーを作れるのはすごいけど、俺駄菓子そんなに詳しくないから、
そこまで没入できなかったなあ。

『レイリ6』

寄生獣の人原作の『レイリ』もようやく完結。
なんかハッピーエンドだったので少しほっとした。

桜木さゆみのなぐさめてあげるッ』

Kindle日替わりセールにて。すいません、桜木さゆみさん、存じ上げませんでした。
そして読んでからも「ふーん」以外の感想は抱けませんでした。
いろんなスティグマを背負った女性の作品、露悪的な作品って、たくさんありますけど、
たとえば西原理恵子内田春菊って、やはり表現者としてのクオリティが高いと思います。

『モンキーピーク 10』

モンキーピーク 10

モンキーピーク 10

あら!意外な展開。しかしここまでちょっと長すぎやしないか…
いや、十分ハラハラドキドキしながら読めているからまあいいんですけど。

『トーキョーガールズデストラクション』

ファイティングガールもの、とでも言えばいいのか。
孤島で戦う女子高生というシチュエーションはいいものの、なんとなく消化不良で尻すぼみで終わった。
多分、真の黒幕の不在だと思う。全容も明かされず、重要なストーリー上の展開点も消化不良だった。
いろいろいいところもある漫画なのに。

『教えてブラジャー先生』

なんじゃこれ、大丈夫?少年チャンピオン
新任の先生はブラジャーしかつけていなかった!みたいな話。
しかも、なんか不良の暴力性とかが度を越していたり、登場人物の性格と行動が、いささかエキセントリックすぎて。
全員非合法ドラッグでもやっているんじゃないのかというくらい共感できない。
あと、一話で早速ブラジャーとれてましたけど、それもちょっと。
そういうのもうちょっと引っ張らないと…あ、ブラをじゃないですよ。

『ときめく金魚図鑑』

ときめく金魚図鑑 (ときめく図鑑)

ときめく金魚図鑑 (ときめく図鑑)

これも、Kindle日替わりセール。金魚を飼っている人にはめっちゃ便利な入門書だとは思う。

*1:Webで調べるとやはりそういう側面が強い。アポロの歌から、「総合小説」のような火の鳥に進化した、ということだろう。

『劣化するオッサン社会の処方箋』山口周

オススメ度 100点

あー。
よかったですこの本。

『世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか?』でも深くうなづくところがあったが、
この本も非常に共感するところが多かった。

jazz-zammai.hatenablog.jp
(これは音楽の話ばかりするBlogにこの本を取り上げたやつ。)

オッサンという人種はなぜあかんのか?、そもそも「オッサン」の定義を

  1. 古い価値観にこり固まり・新しい価値観を拒否する
  2. 過去の成功体験に執着し、既得権益を手放さない
  3. 改装序列の意識が強く、目上の者に媚び、目下の者を軽く見る
  4. よそ者や異質なものに不寛容で、排他的

と定義している。なるほど。
サミュエルウルマンの「青春」の反対みたいなやつですね。

この本のどこに深く共感したかというと、今50-60代の頃の人たちが、なぜこのような「オッサン」が多いか、ということを、
いや高齢化してきた人間はだいたいそうなるからだ、というわけでもなく、この世代特有の社会背景もあるということを
きちんと見抜いているからだ。
70年代から80年代、そして90-0年代の日本の社会構造と文化を振り返り、

  1. それまでの教養主義と、90年代以後の実学主義のちょうどはざまの「知的真空の時代」(大学のレジャーランド化)に青春時代を過ごしてしまったから。アカデミックなものとか、ものを考える習慣というものが著明に減少したなかで大学時代を過ごした世代だから。
  2. そして「大きな物語」すなわち「いい学校を卒業して大企業に就職すれば、一生豊かで幸福に暮らせる」という昭和後期の幻想が喪失する以前に社会適応してしまった最後の世代だから。(今はグローバル資本主義を信奉する時代と言える)

ということだそうだ。
要するに、本来人生を決定づける20代の時期に勉強もせず過ごして固まってしまった。
今さら年を経て、経験を重ねても、自分でものを考える習慣がなく、省察も対策も打てない。勉強する習慣もなく、危機を察知する能力さえも鈍感である。
ということらしい。なるほど……その結果として、

システムというものは必ず経時劣化するので、どのようなシステムであっても、そのシステムを批判的に考察して、その改変や修正についてイニシアチブをとってくれる人が必要なのですが、そのような教養とマインドセットを持った人材がほとんどいないという社会が発生しているのが、現在の状況なのです。

すごい納得はしたけど、それはゼツボーじゃん。

深くうなづくところが多かったので、できれば一読をすすめます。
すごいな山口周、いまのところ、買った本すべてにハズレなしだ。
「働かないおじさんをどうしたらいいか」みたいな本は今までも読んできたんですけれども、これが一番ささりました。

以下、少し備忘録。

  • また、組織の人材クオリティが世代交代を経るごとにエントロピー増大の影響をうけて、三流の平均値に収斂する。
  • 「没落してゆく民族がまず最初に失うものは節度である」シュティフター『水晶』
  • 経営はアートとサイエンスとクラフトの三つが渾然一体となったもの。
  • 二流の人間が社会的な権力を手に入れると、周辺にいる一流の人間を抹殺しようとします。
  • 社会で実験を握っている権力者に圧力をかけるとき「オピニオン」「イグジット」の二つのやり方がある。

『ブス界にようこそ』

オススメ度 70点
パワーワード、頻出度 80点

一言で言うと、「ニューハーフショーパブの踊り」のような漫画だ。

チラシの裏にでも書いてろ!
なんて言葉があるが、この漫画はアマゾンインディーズというゼロ円で配信されるKindle文庫である。
デジタル、チラシの裏である。

ストーリーはなかなか壮絶なもの。

死んだブスに与えられる最後のチャンス、それは綺麗な奴を食いまくって、生き返るというもの。 自殺した主人公は、ブス界という、不思議な世界で目を覚ます。 そこは強烈な、競争と階級の闘争社会だった……!『タイトルに騙された!アツい!』という声の多い王道少年マンガです。

なんかブスの主人公が自殺をして、転生したところは、「ブス界」といわれるある種の地獄。
ブス同士が戦い、殺しあう。
生き残ったブスは、お互いに食い合うことでステージがあがり綺麗な人になれる、という世界。

転生もの、といえるのか、ガールズファイトものとでもいうのか、純粋格闘漫画、と言えるのか。
漫画という形式で評価すると、描線もあらく、コマ割りや表現も、アラが目立つ。
 その意味で、「キレイな」漫画、とは言えない。

でもしかし、そこに横溢するセリフ、世界観は、やたらアツく、なんか、感動させられる根源的な何かを持っている。
パワーワードが連発するぞ。

技術や形式を超えた、表現欲が伝わってくる漫画だ。
そういうところが、ニューハーフショーパブにいるオカマ達の原初感溢れるショーダンスに相通じるものがある。

現在12巻まででているが、普通の単行本の分量にして三巻くらいか。今後の展開にも目が離せない。

ちなみに、ブスはともかくヒエラルキーの頂点としての「美人」は、おそらく外人のモデルとか、そういうのを参考に描かれているよう。
ゴツゴツとしたデッサンと素描にあっている。
日本の女優さんっぽい美人って、柔らかい曲線で出来上がっているのであるが、そういう人は描かれない。
まあこの世界が、「戦う女の世界」だからかもしれないけどね。

『ゴールデン・カムイ』『シュマリ』北海道開拓漫画について

シュマリ 1

シュマリ 1

ついこの前吉村昭「赤い人」という、北海道開拓史における刑務所・囚人の歴史を描いた作品を読んだ。
halfboileddoc.hatenablog.com

その時に当然、「シュマリ」のことは念頭にあった。それと、ヤンジャンで連載中の「ゴールデン・カムイ」のことも。
ゴールデン・カムイは人気だし面白いことは承知の上で、通読はしていなかったが、今回KIndleまとめ買いで読んでみた。

……すんげーおもしろいでやんの。

日露戦争から帰ってきた「不死身の杉本」とアイヌの少女アシㇼパが出会い、物語が回り出す。
やがて新撰組の生き残り、土方歳三が率い、蝦夷の独立を目指す集団、一方、北海道の自治独立を目指す陸軍第七師団歩兵第27聯隊と、アイヌ埋蔵金を巡る三つ巴のデッドヒートに発展する。

隠されたアイヌの金塊という点では「シュマリ」とバックボーンは一部似ている。
だが、ストーリーの転回は当然全く異なる。
どちらも優劣つけがたいが、イマドキの作品である分、『ゴールデン・カムイ』の方が、いろいろな要素を丁寧に描いていると思った。
アイヌの生活描写、化け物じみた戦闘集団の様子、暴力描写などは、やはり新しい作品はクオリティが高いとは思う。

ゴールデンカムイは、人の描写が、風景と同じタッチである分、銃などで撃ち殺され、生命の光を失う描写が、やけに生々しいと思った。