半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

ブラック企業

オススメ度 70点
労働契約などの参考になる度 80点

ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪 (文春新書)

ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪 (文春新書)

Kindle 日替わりセールだったかもしれない。
筆者は在学中に若者の労働相談を受け付けるNPO法人POSSE」を立ち上げ、労働相談にかかわってきた人。
2000-2010くらいまでの労働環境の変化を概観する本。

1990年代後半からリーマンショックくらいまでは、どちらかというと、就職氷河期からの雇用難で、新卒者が就職できず大量に非正規雇用に流れた。
正規雇用者と正社員の生涯賃金は格段に違うことが露わになり「フリーターになるとこんなに悲惨だ」と脅迫的に教育され、正社員になることが成功の第一歩とされた。
ちなみに僕は昭和49年生なので、この就職氷河期世代。
ただ、リーマンショック以降、労働相談の質が変わってきたらしい。
ブラック企業」問題の被害の対象は主に正社員。

正規雇用を忌避し、正社員になろうとする新卒者の心理を逆手にとって、正社員として入ってきた新卒社員を酷使することで人件費圧縮を狙う。
すべての新卒者が質のよい社員になるわけではないので、新人の時点で「選別」する。
選別に漏れた新人は、圧迫や心理的脅迫で、退職に仕向けていく。
絶対的な権力構造、パワハラ、セクハラ…さまざまな違法行為。
努力しても何しても罵られ、絶え間なく否定され、人格破壊を行って退職に追い込む。
これがブラック企業の基本戦略の一つだったりする。
確かに「使えるやつ」を効率よく採用するにはこれが、その時点での最適解だったのかもしれない。

本としては勉強にもなるお話ではあった。
が、ただ、今は「ブラック企業」問題をうけて「働き方改革」などの言葉で象徴されるように、揺り戻しがきている。
また、リーマンショックの頃、超買い手市場であった労働市場は、現在は、労働人口の減少をうけて、今は売り手市場だ。
なので、雇用者に厳しい企業は、労働者に相手にされなくなりつつある。

なので、ある種「ブラック企業」は淘汰されつつあるし、セクハラ・パワハラに社会の視線が厳しくなったのもここ数年のトレンドだろうと思う。
ブラック企業の手口、例えば、みなし労働時間制や、最低賃金に残業を含めた条件を提示する、最終月の給料を支払わない(手渡しにする)ことで、メンタルを病んで会社に来れない人へのコスト削減だったり、も、現在は容易には行えない。

少しずつ世の中は進んでいると思う。

働き方改革法案」が来年度から施行されるが、その法案の基本理念は、中小企業の経営者にとってはまだ「腹落ち」できていない部分が大きい。
いや、大多数の被雇用者にとってもそうだ。だって「同一労働同一賃金」って、本質的には年功序列を否定するものだから。
法案の制定の背景には、世界での労働契約・雇用契約の流れと、今までの日本の労働問題を理解する必要があるが、
この本は、近年の日本の労働問題が概括されていると思う。