半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『指揮官』児島襄

指揮官 (文春文庫)

指揮官 (文春文庫)

旧日本軍の軍事史を全くしらない人はいないと思うが、昭和軍部の拙劣なマネジメントは、たまたま偶然あの組織だけが劣っていたのか、それとも、日本人が必然的にもつ宿痾なのかというのは、考えると怖い永遠の問題。
この辺は、「失敗の本質」という本にもあったし、司馬遼太郎岸田秀も繰り返し取り上げてきたテーマではある。

昭和軍部の構造的問題に、極めて近いことが、今も日本政府の中では起こっているように思う。
というより、今の政府の意思決定のありよう(Go Toキャンペーンなどの、縦割り行政の省益優先の姿勢など)は、硬直した官僚機構としては、やや末期的なレベルであるように思う。日本の官僚機構は、長年住み続けた組織をに絶え間なく線維化成分を与え、枯死させてしまうのだろうか?

そんな愚痴はともかく、太平洋戦争の際に『活躍』した指揮官の話。
筆頭に上がるのは山本五十六であったりする。あとは、硫黄島で有名な栗田中将・インパール作戦で悪名をはせた牟田口など、まあだいたいのところを網羅して十四人取り上げている。
素朴な感想をいうと、やはり指揮官には能力もあるけれども、その人の個性もあって、その個性と戦場がたまたま合っているのも、よい戦果の条件なのだろうな、とは思った。いやそんな相性のようなことは本来許されないのかもしれない。兵卒の生死を左右するのだから。
第二部は、同時代の海外の指揮官。ロンメル・パットン・マッカーサーニミッツなどなど。彼らもやはり敗軍・勝軍いずれにおいても、個性が光る。一時代を為した人たちの列伝が、重すぎず軽すぎず紹介されていて、なかなかいい本だと思った。

ただ、この時代の戦史の概略は知っておく必要はあるだろうな。その意味で、「二周目」の本だと思う。

見方がかなり変わったのは、「山本五十六」と「マッカーサー元帥」かな。
両者とも多分に軍事的な才能というよりは政治畑の要素がかなり強い人であった、ということだ。

戦術家として純粋にすばらしいと思ったのは宮崎繁三郎、オード・C・ウィンゲートの両者。
ともにクソみたいなインパールで、劣勢の中、兵卒を大事にしながら奮戦をした。
こういう人が英軍・日本軍の双方にいたことは、溜飲が下がるね。
インパール戦線といえば……クソ牟田口のクソエピソードだけれども、今後は宮崎繁三郎中将を想うことにしよう。

ja.wikipedia.org
ja.wikipedia.org

『遅いインターネット』宇野常寛

遅いインターネット(NewsPicks Book)

遅いインターネット(NewsPicks Book)

宇野常寛の本は、みるたびにはっとさせられる。
halfboileddoc.hatenablog.com
きっかけはこの「ゼロ年代の想像力」だったと思う。
いわゆる「ヲタクがたり」の範疇を越えた現代批評(どちらかというと、ヲタク言説というよりは寺山修司のようなスタンスだろうか)に、久しぶりに打ちのめされたのだ。
その頃の自分は、書生くさい大学時代から社会人となり、田舎の野戦病院で研修医として「現実」に直面して奮闘していたころで、サブカルのような高等遊民的なマインドからもっとも目を背けていた時期だと思う。そんな自分にさえも、宇野の時代の論評はみずみずしく心にひびいた。

考えてみれば、物語とは現実の投影であり、現実の事象が物語に投影されうる。
すなわち、同時代性の高いコンテンツを掘り下げてゆくと、現実世界の諸相にぶちあたるのは当然であると言えよう。

この本では、物語世界を入り口に現代を語るいつもの語り口は省略され、現代批評家としての宇野の語りから出発している。

まずは、冒頭、平成の総括に深く納得してしまう。

平成とは「失敗したプロジェクト」である。平成とは政治改革と経済改革という二大プロジェクトに失敗した時代である

二大政党制、自民党が下野し、合従連衡を繰り返した挙句に、自民一局に戻り、55年体制を覆すどころか二大政党制からさえも遠ざかってしまった。それは自民党の非だけではなく、一時的に政権を獲った非自民側にも責任の一端はあるように思う。
経済に関しても、21世紀の冷戦後のグローバル時代には日本の会社組織は置いていかれている*1

アラブの春」などに代表されるITを駆使した革命は、結果的に民主政権の樹立には成功していない。インターネットやマスメディアは、既存の勢力を打倒する力はもつけれども、新しいものを打ち立てる力は持っていないというのが定説になっている。
日本でも、カリスマ的なリーダーがテレビポピュリズムを用いて戦後政治体制を打破しようとしたが、誰一人志を貫徹できなかった。テレビポピュリズムには持続可能性が低いから。SNSやメディアによる民主化は、新たな組織構築はできない。

宇野の筆致は容赦ない。

グローバル社会のもっている弱点。
Anywhereの人々、Somewhereの人々の違い。(グローバルの人とローカルの人と考えてもいい)

グローバル世界には、民主的な世界というのはうまく作用しない。Somewhere=グローバルの人たちはどこへでも移動し、どこへでも資産を移動する自由を持っているために、地域内のステークホルダーとなり得ない。
このコミュニティから出てゆく自由まで包含したレベルでは、自由と民主主義は両立しない。

トランプやブレグジットでは民主主義はあたかも「持たざる者の負の発散装置」として発現している。
逆に、今後も民主主義というものは容易にポピュリズムに陥りうるものだし、ポピュリズムは誰かに悪用される危険がある。
かといって、中国のような独裁政治を容認できない程度には、我々は欧化されすぎている。

そこで、民主主義を半分諦めることで、守る。
立憲主義を尊重し、民主主義で決定できる範囲をもっと狭くする)
生存権表現の自由、男女平等など、普遍的に守られるべき事項については超国家的な枠組みの権限を強化した方がいいのではないか。

そもそも人間はすべての選択を自己決定できる能動的な主体=市民でもなければ、すべてを運命に流されていく受動的な主体=大衆でもなく、常にその中間をさまよっている。
政治参加はデモでも選挙でもなく、その中間が必要だ。

インターネットのオープンネスは今変化しようとしている。
適度に閉じたインターネット、適度に遅いインターネットがいいのではないか。

* * *

宇野の提案はかなり魅力的ではあるが、民主主義の範囲を制限したり、インターネットの情報スピードを、意図的に遅くする(これは、回線を遅くする、というわけではなく、SNSなどによる情報の拡散やレスポンスが速すぎて、有意義な議論がなされない弊害を指している)ことが、果たして可能なのか……というところには興味がある。
全世界に意見が一瞬に到達されるオープンなSNSは、確かに議論は深まらないので、例えばクローズドにして深く論じたり、とか、そういう解決法なのだろうと思う。

地域コミュニティの意思決定であるとか、そういう部分は、おそらく宇野の提案がうまくいくのであろうと思う。反面、地方自治体や、因習的な日本企業の意思伝達と意思決定などでは、おそらくうまくいかないんだろうな、と思う。

おりしも、コロナで、いままでの生活様式の見直しが叫ばれている現状は、この本では予想はされてはいないけれど、宇野の現状把握と解決策の提案は普遍的で、一顧たるものであるはずだ。

*1:むしろグローバリズムそのものに冷や水を浴びせるコロナショックのダメージが日本ではむしろ少ないかもしれないという僥倖もあるけれども

『魚を与えるのではなくサカナの釣り方を教えよう』

オススメ度 80点
あんまり本よまない人向け度 100点

一言でいうと、わかりやすい「自己啓発」本。
起業家の親が子供に達意を教える、という形式なので、まあ「金持ち父さん」とかと視座は似ている。

被雇用者視点から、起業家視点に、ローカライズド人材からグローバル人材へ、視点を変える考え方を養うには向いているかもしれない。

この手のビジネス本にとってまずまず当たり前のことが、わかりやすく書かれている。
一つ一つは大したことのないTIPSかもしれないが、全部合わせて読むと、なかなかのものだ。
自由に生きるライフスタイルを目指す人にとっては、まずまず過不足ないんじゃなかろうか。

社会人の新人、若者、子供に一冊渡す、と思うと、確かにいい本かもしれない。何冊か買っておこうかな。
自己啓発本そのものだが、真っ直ぐないい本だ。

以下、備忘録:

続きを読む

『Graphic Recorder』

オススメ度 80点
こんなジャンルもあるんだ!度 100点

マインドマップとかノートのとりかたとかも、いろんなTIPSがあるじゃないですか。
この辺りも結構いろんなものを読んでいるけど、僕は整理が絶望的に苦手で、入れた知識さえも整理できていないので、みなに紹介することができないのが悔やまれる。

ただ、会議のまとめ、会議のアジェンダを、ホワイトボードのようなものに板書するやり方を工夫して、よりわかりやすく、意見を共有することで新たな意見を啓発する方法、それがグラフィックレコーディング。
この方は、世界のいろいろなチームファシリテーションを勉強してオリジナルなスタイルを作ったみたいだ。
参考文献:

日本人は、頭は悪くないけど、言葉による論理構成は苦手な人は結構いる。
だから、こういう形で、見える化=ビジュアライズすることで、ストンと腑に落ちる人は結構いそうだ。

こういうのって、絵がヘタだとなかなか難しいものだと思うけど(僕もそうだ)一応この本では、簡単にかける絵、記号化された絵の描き方から触れていて、非常に親切ではある。
ただ、そのアイコンですら、まあまあ絵がうまくないと描けないという事実はあるよな。
この方の成果物も、会議でそのまま描くスピード感が大事で、お世辞にも綺麗とは言えないけれども、でも俯瞰して見るとやっぱり整っているんだよね……でも、絵心も歌心もなんにしろ、才能もあるけど、才能なくても反復してやっていると身に付くものでもあるのだ。

教科書の隅っこに落書きするのが得意だった人は、多分このGraphic Recording向いていると思う。その才能はしばらく社会人で生かされることはなかったかもしれんが、会議でやってみたら、いいかもしれない。

『ワダチ』松本零士

オススメない度 100点
なんとも言えない度 100点

ワダチ (1)

ワダチ (1)

マンガの書評を読んでいたりしたら出てきたので読んでみた。
簡単にいうと、『男おいどん』とハーロックとかヤマトとか松本零士描くところのSFものを混ぜ合わせた怪作。

昭和30年〜40年代のまだまだ高度経済成長がすみずみまで行き渡っていないころの日本の息吹がなんとなく知れる。
平成生まれよ、昭和はこうであったのだよ!
(とはいえ、私も昭和49年生まれなのでこういう時代感は今ひとつわからないのだけど)

松本零士描くSFは、未来なのに、定規で引いた線が乏しいアナログ・アナクロなもの。
松本零士の精神世界はなんかバッチイ感じもするし、性格的にも自分とは合わなさそうだ。なんか話しても無駄な感じがすごくする。

でも、やっぱり面白さは一定量あって、この轍全2巻も、うなづけるところがまったくないのに「この先どうなんねん」という先に引っ張るドライブ感だけで読ませてしまう。

ふと、思ったけれども、『男おいどん』の正統な後継者は『チェリーナイツ』だな。

チェリーナイツ 1巻

チェリーナイツ 1巻

『大きな嘘の木の下で』

6月の前半は、人事や職場の人間関係に関する本をまとめて読み、紹介。
後半は、やや力尽きてKindleのフォルダに溜まった漫画とかをあまり力を入れずに紹介。
7月からまた通常モードに戻ろう。

オススメ度 100点
アツさ度 150点

Owndaysの社長田中修治さんの、会社論というか仕事論。
僕はよくわからないし、一メガネファンとして、販売店としてのOwndaysには全く縁がない。
が、この社長の、赤字で売りに出ていた会社を買い取って立て直したエピソードはすごいと思うし、胆力と根性が備わった方だと思う。
前作の『破天荒フェニックス』もかなり話題になった(これは飛ばし読みをしたが、通読はせず)。

成功した社長の立志伝、平成令和版ね!
と軽く読み始めたが、面白いのだ。
苦労しただけ人格に深みもでる。観察眼も頭もよくなければこんな人並み外れたことできないわな。と思った。
Book SmartタイプではなくStreet Smart。問題が起こった時に、すでに既知のスキームにあてはめて解答を導いていくというタイプではなく、きちんと自分で絵図を描いて解決法をさがすタイプだ。だから説得力があるし、他の組織にも通用するような汎用性が言葉にある。

ビジネス本、自己啓発本みたいなものを読み倒している僕にも、この本は深く響くところが多かった。
同時代人を生きているだけあって言葉が響きやすいのだ。
中小企業のリーダーという点でも似ているからかもしれない。

「リスクをとるために毎日の生活習慣を変える方法」には深く共感した。
これ、いわゆる認知行動療法とかの前熟考期から準備期くらいの人のテクニックとして使えないだろうかと思う。
また『組織の人間関係は「上下関係」ではなく「どれだけ中心に近いか」』という考えも、なるほどと思った。
これは、結構今の組織で悩んでいるところだったので、目からウロコ。
私もこういう風に考えようと思う。

自分の読後感ではこの手のビジネス本で2020年ベスト5には入るだろう。
むずかしさはなくわかりやすいので、会社の若い子に読ますという意味でもオススメだ。
(マグロ漁船仕事術につぐわかりやすさだと思う。私はビジネス本のわかりやすさを『マグロ漁船仕事術』をリファレンスにしている)。
非常に実際的な話で、おまけに元気もでるので、とりあえず読んで損はしないんじゃないか。
halfboileddoc.hatenablog.com


以下、備忘録:
(詳細略)と書いているところは深く感じ入ったところ。全部書くと営業妨害なのでさわりだけ。

続きを読む

小ネタ集

気がつくと一年も半分過ぎた。

本当にあった怖い話

この現場は私の住んでるところなんですけど……
ポートプラザで、超サブカルの漫画家のサイン会は、そもそも無理があったと思う。
人生、しかしこういう辛いシチュエーションというのは必ずあるもので、語り草にするしかないね。

第1集 おしまい

第1集 おしまい

ただたか氏の短編。Web漫画だったらめっちゃバズりそうなやつ。
ちょいエロ。短編のテンポは完成度が高い。

ゴールデン・ゴールド 7巻

刻刻』の堀尾氏の新作も気がつくと7巻まで。
物語の中盤は過ぎたように思う。相変わらずうまい。
多分尾道向島くらいの話。

桃色水滸伝

Unlimitedで吊られ購読。完全にエロ劇画(笑)
なのだが劇画で時代劇なのに、あどけない現代風の少女の顔。画力は高いと思う。
ただ、全頁中エロな(つまり桃色な)要素は40%くらいで、これはAVに準拠する高さだ。
要するにエロ本だ。

冥婚の契

冥婚の契(2)

冥婚の契(2)

ホラー&村社会の閉鎖ミステリー。
キャラクターの弁別性が悪くて途中から筋がわからなくなってしまった。
すでに後味悪そうな結末が見えてくる。

終末のワルキューレ

シチュエーションをみると、面白いと思うし、実際、面白くないことはない。
のだが、妄想力に多分自分に合わない要素があるのではないかと思う。

髑髏は闇夜に動き出す

タイトルの画数が多い漫画ランキングには多分ランク入りされるのではないかと思う。
これもWebで見て。わかりやすいリベンジストーリー。

スライムを倒して300年知らないうちにレベルMAXになってました

『転生もの』はキリがないのである時点から読むのをやめたが、これもその一人。
転生チートものだが、ゆるゆる日常ものっぽい感じで、女子校臭がすごい。
これはこれでホモソーシャルなのか。

天国大魔境 4巻

Akira感まるだしのこのSFも、だいぶこなれてきて物語は中盤に。

100回お見合いしたヲタ女子の婚活記

これもWeb漫画からかな。タイトルまんまの話
やっぱり婚活は非常にパーソナルな話なので、で、面白いですよね。
(見方を変えると、パーソナルな話なので、面白くない、とも言える)
あ、これおもしろかったですよ。

風雲児たち

風雲児たち 1巻 (SPコミックス)

風雲児たち 1巻 (SPコミックス)

結構面白いのだが、溢れ出る昭和感…

半沢ニャオ樹

「ハライチのターン!」今週の猫ちゃんニュースで知った。
うーん。僕も池井戸作品はかなり読んでいるからまあ、パロディの面白さはわかるけど…
半沢直樹の世界そのものにはそこまで思い入れはなかったもんなあ…

ワンナイトモーニング

一晩を過ごし、翌朝一緒に食べる朝ごはん、という縛りで描いたオムニバス。
日本にはむかしから「後朝(きぬぎぬ)の別れ」という言葉があるので、これは新しくて古い切り口なんだと思う。