半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『文豪どうかしてる逸話集』

文豪どうかしてる逸話集

文豪どうかしてる逸話集

多分、発端はなんかのWeb記事。
明治大正期の文豪は、今でこそ、「文」の「豪」として崇め奉られているけど、実に人間臭いアウトローたちであり、しょうもないエピソードなんてなんぼでも出てくるよ、みたいな話。

そんな文豪たちの、尖ってイキったエピソードを愛を込めて紹介している本。

太宰治とか、夏目漱石幸田露伴尾崎紅葉(紅露時代)、谷崎、菊池寛など、巨星を章ごとにあげて、その周辺の作家を紹介するという方法をとっている。
この構成はとってもうまいやり方だと思った。
文豪名鑑みたいに一人一人、辞典風に紹介する形だと、ちょっと詳しい人じゃないと楽しめなくなってしまう。
誰でも知っている有名どころとその取り巻き、みたいに紹介しているのは知識がなくても楽しめる。
結局友人たちとのやりとりって、みていても微笑ましいものだし、現代でも、友達の間での「武勇伝」みたいなものが、一番酒場で盛り上がる話ではある。
文豪同士の友人とのやりとりを、現代風にみているだけでも、
「こいつらしょうもねーなー」「こいつキレてんな」とかおもえて楽しい。
ただまあ自分の贔屓筋、たとえば僕なんかだと坂口安吾とかが「太宰の友達」というだけで終わってしまうのは少し寂しくはある。

 個人的には太宰と谷崎のクズっぷりが気に入った。
 太宰はクズだけどめっちゃ周りにも愛されている風だし、
 谷崎はやはりクズだけどその生来の変態が災いして若干敬遠されている感じがある。
 今TV番組で紹介されたら、太宰は、まあまあ爆笑をとる感じだが、谷崎は「えー…」とか「イヤ…」とかフロアがざわざわする感じ。



 あと、菊池寛の割り切ったパトロンぶりは、個人的にすごい尊敬する。
 人間こうでなくちゃいかん。

『宇宙から恐怖がやってくる!』

オススメ度 80点
シニカル度 80点

宇宙から恐怖がやってくる! 地球滅亡9つのシナリオ

宇宙から恐怖がやってくる! 地球滅亡9つのシナリオ

『ムー』っぽい話? と思ったけど、いわゆる「アンチムー」的な人の話だった。
作者フィリップ・プレイトはバリバリの天文学者・宇宙物理学者。
どちらかというとオカルト撃退の立場の人らしい。

そんな人が、宇宙から突如発生しうるカタストロフ・イベントについて詳しく解説。
隕石・流星・彗星・小惑星の落下。
太陽フレア黒点活動などによる地球への影響。
超新星、ガンマ・バースト(GRB)、地球外生命体、ブラックホール赤色巨星
そして、いずれ必ず起こる宇宙そのものの死。

大気圏への天体の落下と太陽黒点活動、GRBについては、もし運悪く遭遇してしまったら一瞬で文明も、命も終わる。
ただ、何100億年も先のことだが、最終的には宇宙も拡散して、熱力学的に死ぬ。
必ず我々の宇宙は終わる。

* * *

小学生の時には、こういうこと、「地球危うし!」「宇宙危うし!」みたいなことを読むと、それで死ぬことがとても怖かった。当時は東西冷戦、核兵器の潜在恐怖もあった。
小さい頃は、死ぬことについて、よくわかっていないながら、死ぬことがやっぱり怖かった。

ただ、今の僕は45歳。子供もいるし、仕事としてもまあ、うまくやっている。
僕は成熟した大人になり、もう折り返し地点も過ぎてしまった。


もちろん、自分が先に死んで、世界は何事もなく続く。
どうせ遠くない将来にそれは必ず起こる。
どうせ自分は死に、1年も経てば、僕なんてはじめからいなかったかのように僕のいない隙間は埋まってしまう。

それを思えば、自分が死ぬときに、一緒に世界が終わることなんて、なんとも思わないな。

* * *

僕が歳をとってしまい、こういうダイナミックな話に感動できなくなってしまった。
語りは軽妙ですごくわかりやすく、なおかつ描写は具体的でよかった。

人間の文明活動なんて、はかないもんですな。

『殺さない彼と死なない彼女』世紀末

オススメ度 80点
世紀末、て。度 80点

殺さない彼と死なない彼女 (KITORA)

殺さない彼と死なない彼女 (KITORA)

なんかで紹介されて読んだ。

うーん、そうですね。
R. D. レインの『好き?好き?大好き?ー対話と詩の遊び』と

好き? 好き? 大好き?―対話と詩のあそび

好き? 好き? 大好き?―対話と詩のあそび

ペイネ『愛の本』
ペイネ・愛の本

ペイネ・愛の本

を足して二で割ったできた代物が、ある種のデザートだとしたら、
それをコンビニスウィーツにマニュファクチャードした、みたいな感じ。

こういうディスコミニュケーションの中のコミュニケーションって、すごく難しくて。
診療の現場とかだと、依存症の患者さんで、医師のいうことと、患者の行動や思いが完全に噛み合わず、折り合わず。さりとて立ち去らず、みたいな感じってあるのだけれども、そういう時に、似たような感じになる。*1

これまでに人生に関わってきたいろんな人(患者さんも含むけど)を思い出させる本だった。
女性ならではの、関係性のノイズとシグナルを細やかに拾う、むしろHSP的に拾い過ぎて疲弊する。
そんなに僕は繊細なコミュニケーションをとれる人間ではないのだが、こういう繊細なコミュニケーションに共感してしまうのは、一体なんでなんだろうね。

今では45歳の僕自身は青年期の人格の不安定というフェイズから過ぎて遠い。
むしろ気になるのは人生の幕引きの方だ。
若い頃の色々は、今では遠くの山から聴こえてくる祭囃子のようなものに思えるのだが。

たまにこういうのを読むと、色々ともやもやといろんなことを思う。

*1:プライベートでは、最近はそういうコミュニケーションはそんなにはない。若い頃は結構あった。僕はメンヘラホイホイ気質……というか僕自身がかなり不安定な性格なんだと思う。平然と今の仕事とポジションでやってるけど、本当は向いてないのに我ながらよく頑張ってるぜ。

『グッドバイブス』

オススメ度 90点
でもこれ経営者が社員に読ませたらあかんやつ度 80点

【★購入特典付き★】グッドバイブス  ご機嫌な仕事

【★購入特典付き★】グッドバイブス ご機嫌な仕事

一言でいって「楽しく仕事をしようぜ」という本。

「仕事を辞めたい」「とにかく早く退社したい」「職場の人間関係がしんどい」
「給料が安い」などの理由で、せっかくの仕事が「嫌な仕事」になっている人は少なくありません。
本書はそんな人たちに向けて書かれた、
「嫌な仕事」を「ご機嫌な仕事」に変える考え方やノウハウが詰まった1冊です。

昨今の働き方改革は、「仕事とはつらいもの」「仕事の時間は少ない方がいい」
という前提で様々な仕組み作りが行われているように見受けられます。
著者の倉園佳三氏は、こうした「仕事=苦行」という前提に疑問を投げかけます。
その理由を「なぜなら、多くの人は人生の大半を仕事に費やしているから」と述べた上で
以下のように続けます。

もし、本当に仕事がつらいものだとしたら、
人生の大半はつまらない時間で占められることになります。
これはまるで、私たちが不幸になるために生まれてきたようなものです。(本書より)

「仕事=苦行」という前提で労働時間削減に取り組むことで、
確かに苦痛は減らせても、仕事そのものからしあわせを得られるようにはなりません。
本書では、いつでもどこでも、何をしていても、どんな状況に直面したとしても、
決して揺らぐことのない「完全無欠なしあわせ」を
自らの仕事で実感できる考え方や実践方法を紹介していきます。

これ、紹介文なんですけど、
ここまで書いてしまったら本文よまなくてもいいんじゃないか…とさえ思う。

だいたいこんな感じ。清く正しい自己啓発本
「哲学」っぽい思考実験が続く。
私たちは一人で幸せにはなれないのだ。
孤立意識、ひとつ意識。
生態系の中の一人である、と考えると、仕事に対する満足感が生まれる。
逆に、そこを感じないと、絶対に仕事中に幸せにはならない。
だから、職場のみんなを、顧客を、自分を幸せにするために仕事をしよう!

……自己啓発本自己啓発臭はかなり強い。

でも、うなづける部分はとても大きいのだが、経営者から職員に対してこれ読めというと、少し問題があるのかもしれない。
すごいいいこと書いているんだけどなー。
これを上から読ますのは、ブラック企業などでよくやりそうな手口であるような気がする。

『ファミコンに育てられた男』フジタ

オススメ度 100点
「やられ音」カラテカについては、非常に僕も同意。度 100点。

ファミコンに育てられた男

ファミコンに育てられた男

世代的にぴったりはまる一冊。

筆者の人生はなかなか壮絶。

小学校入学の直前、母親が急死する。
機を同じくして父親は同級生の母親と暮らすようになり、
著者は突然一人ぼっちになる。小学生にして、
たった一人で生きていかなければならなくなった著者を絶望から救ってくれたのはファミコンだった。
ファミコンをすることで孤独を忘れ、人生を教わった著者の壮絶な半生――。

紹介のとおりで、幸せな家庭が、母の突然死によって一変。
父親は自分のクラスの友人Kの母親(シングルマザーだったようだ)と仲良くなってしまい、自宅には寄り付かずKの住んでいるアパートに。
最初はお手伝いさんもいたようだが、それもなくなり、毎週3万円が封筒に入れられ、それを使って自由に生きていけ、という絶対的に孤独な日々を暮らす。小学生にしてロビンソンクルーソー状態。

家に帰れば一人っきり。誰もいない。
毎日店屋物で食事する小学二年生。かぎっ子なら待っていれば親は帰ってくるけど、僕の場合は待てど暮らせど帰ってこはこない。
(中略)
子供向けの番組が終わる九時ごろになると、急に心細くなった。
ここからは大人の時間で、世間で起きている子供は僕だけなんじゃないかと不安になったりした。妙にセンチな気持ちになり、知らないうちに涙があふれてきたり、気がついたらぶつぶつ独り言を言っていたりすることもあった。
(中略)
今考えれば、自我がボロボロと音を立てて崩壊する寸前だったのだと思う。

そんな彼を救ったのは、ファミコンだった。孤独を癒してくれるだけではなく、努力すれば物事は上達して報われること、不可能と思ったことも注意深く観察すれば解決の糸口があること、無敵と思われた悪役にも必ず弱点があること…

確かに考えてみれば、テレビゲームは、ゲームの背後には作り手がいる。作り手の意思を、コミュニケーションするしかなかった。
上達するのは当然のことであろう。

とはいえ、冒頭の壮絶すぎるエピソードが開陳されたあと、残りの8割は、個別のゲーム寸評である。
どれもこれもやりこみ倒した男からの言葉は、非常に重みがあるっつーか。
マリオブラザーズでの友情崩壊エピソード、ゲーセンで不良に一目置かれた麻雀、お母さんがなくなった日にやった「ベースボール」、ゆとりある暮らしには油断があると悟った「ボンバーマン」。など…… 同世代を経てきた僕にも、ただただ懐かしい。
ファミコンが得意なことでモテようとするような描写もところどころあり、なかなか壮絶な中にも茶目っ気もあったりする。

本のタイトルのネタ元「狼に育てられた少女」

狼にそだてられた子

狼にそだてられた子

なんだと思うが、児童発達とかそういうやつで話題になるやつですね。

ファミコンに人格形成の大部分を依存せざるを得なかった、フジタ氏。
これはこれで、狼に育てられた並のインパクトがあるのだと思う。
(ま、ファミコンに母性があるかというと、そこは難しいところなのだが)。
よくぞ、成人し大人になれた…という感慨が深い。

ただ、まあ、こうした壮絶な少年時代を乗り越えたフジタ氏のビルドゥングスロマン(成長譚)として考えると、
冒険に出発し、帰還するというところで完結するのが普通だ。
だから普通の世界に帰還し今では普通の生活を営んで幸せに暮らす…というエンディングならいいのだが、
この人は今でも独身(こんな少年時代送ったら、家庭をもつことも躊躇してしまうわなあ…)でファミコン芸人、コレクターとしてのトレーディングで生活をしている。つまりまあ異界から戻れてきていないのである。

その辺が、まあ話としてはカタルシスを欠くよなあと、思った。
色々なものを欠落したまま、成長でき、現実世界とうまく折り合いをつけた現在は、
すごいとしかいいようがないので、しょうがない、とは思うけれど。

『裸でも生きる』

オススメ度 90点
すげえ度 100点

一言、「すげえ。」

イジメられっ子が高校「男子」柔道部へ。偏差値40で慶応合格。国際援助に目覚め最貧国バングラデシュで起業。超過酷な現実を次々乗り越えた驚愕ビジネス戦記。
一歩踏み出す勇気がここにある!
イジメ、非行……居場所がなかった青春。強くなりたいと入部したのは「男子柔道部」。そして偏差値40から3ヵ月で一流大学合格。大学を卒業し、本当の現場を見たいと渡ったアジア最貧国バングラデシュ。腐敗にまみれた国で見つけた眠る素材、出会う人々。やがてバッグ造りで起業を決意。数々の失敗、挫折、裏切りに遭いながらも歩みを続け、途上国発ブランド マザーハウスを軌道に乗せて各マスコミで最注目の女性の、明日へ向かう力に溢れたノンフィクション!

僕自身は世界を相手にしたビジネスには全く縁がなく、マザーハウスといわれてもピンと来ないのであるが、まあこの女性の経歴がすごい。上に本の紹介文を転載しましたが、確かに、この通り。

体当たりの行動力で、常識を打ち破って行く様は、本当にすごいと思った。

ただ、あくまで個人的な感想。
「攻略本を一切読まずに、人生というRPGを進むとこうなるのか…」
と思った。私なんかは好んで読書をする性向が邪魔をして、こういう「常識を打ち破る行動」というものをなかなか思いつきもしないし、それも実行しようとも思わない。
「常識」というのは先人達が歩んできた、成功と失敗の積み重ねで織り上げられた地図である。
先人の遺産として残された「地図」をしっかり読み込んだ方が、怪我はすくないだろう。
ただ、全くそういう地図を無視して体当たりでゲームを始めると、怪我のリスクを負うかわりに、誰も踏み込んだことのない領域にたどり着くことができる。
攻略本片手に冒険することよりも喜びは大きいはずだろう。
ま、でも生存バイアスも忘れてはいけないね。

『懲役339年』1〜4巻(完結)

オススメ度 80点
読後感のスッキリ度 100点

懲役339年(1) (裏少年サンデーコミックス)

懲役339年(1) (裏少年サンデーコミックス)

これ、読んだのは随分前*1だけど、奇妙な読後感があったので改めて。

転生が信じられている世界で、大罪人の生まれ変わりとして、生まれてからずっと刑務所ですごす少年ハロー。前世の記憶もなく、罪の意識もなく、ただひたすら罪を償う2代目ハローの日々とは!? かつて見たことのない世界観を若き鬼才が描く!

転生が信じられている世界というのは、現在の世界でも非常に限られてはいるが、未だにある。
例えばチベット仏教ダライ・ラマは永遠に輪廻転生を繰り返し、死ぬと国中を探して新たなダライ・ラマを奉戴するやり方は、一般によく知られている。
ゲド戦記』の2巻でも墓所の巫女は生まれ変わりだとされた。

近代は能力主義・平等主義が所与のものとされるが、昔はこうした身分制度世襲によって固定されたような社会がほとんどだった。インドのカースト制度などもそうだ。

ただ、この本の社会は、一見、公平で平等な社会であるかのようにみえて、「前世」という検証不能な前提によって見えない階級社会を作っている、というところが、やや因習的な社会制度と異なっている。

でも、今生きている我々の世界、メリトクラシー能力主義)の社会そのものが、表向きは公平な競争のもとに階級化が行われているように見えて、その実、目に見えない様々な力により、階層流動性は小さくなり格差が開きつつある。(例えば、東大生の親が高所得であるとか)
この作品は、こうした現状に対する批評性を有しているのかもしれない、と一世代前の私には感じられた。

キャラクターのかき分けなどは今ひとつで、デッサン力なども含め画力がそれほど優れているとは思えないが、ストーリーテリング、コマ割りなど、漫画としての力は大変優れていると思う。

*1:2015年だった。多分書評サイトかなんかで読んだのかな。