半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

2024買ってよかったもの【書籍編】

ウォーキングのお供

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前回あげたKindle paperwhiteによって本を読む量はうっすら増えた。公共交通機関に乗ったりする間や待ち時間とかに、このpaperwhiteがとても有用だった。
また、以前は歩いてる時音楽を聴いていたのだが*1後半はpodcastを聴くことが増えた*2
コテンラジオが面白くて、コテンラジオにはまった。*3最初から聴き直して70%くらいのところまで進んだ*4
coten.co.jp

未来を読む

混迷の時代、この先どうなるのか。
いまいちよくわからない。
コロナの時点で自分の理解を超えてしまったからだ。
なので、未来予想だったり、新たな切り口で世界を読み解く本を割と読んだ気がする。

西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか

ウクライナ戦争に際する西洋、世界の態度を冷静に評価すると、むしろ追い込まれるのは西洋の方ではないかという論説。
プロテスタンティズムは不平等を容認する」も、確かにそうだ。
なぜ我々の世代は政治組織化や団結できないのか、というのを悩んでいたが、なんかしょうがないかなと思った。

新しい封建制がやってくる

IT化の世界、気がつくと、自由民の俺たちは農奴みたいな存在になっているのかも。という本。

自由の命運

西洋諸国における「自由な社会」の自由さは、所与のものではなく、特殊な状況において華開いた、という話。

貧乏人の経済学

途上国の人たちを「救う」というのは結構難しい。という話。考え方、情報の非対称性によって、非合理な選択をするようにみえるが、彼らには彼らなりのロジックがある、ということを丁寧に解き明かそうとする本。ただし明確な答えはない。

悪と全体主義

ハンナ・アーレントを概説した新書。ハンナ・アーレントは「アイヒマン」を書くことでものすごく賛否両論を引き起こしたわけだが、彼女は正しかった。今のイスラエルをあの時代から言い当てていたように思われる。

高坂正堯もの 文明が衰亡するとき 歴史としての二十世紀 世界地図の中で考える

もう亡くなった人だし、内容も一世代分古い。しかし今読みかえしても、蒙を啓かれる感じはすごくする。

戦争とデータ・従属の代償・サイバースペース地政学

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戦地での被害や戦果を正確に計上する、定量的に評価するというのは結構難しい、という話。

国家はなぜ存在するのか

ヘーゲル論。地元のジャズバーでテケトーに演奏していた時に知り合った人がその筆者だった。
地元のFラン大学に集中講義でヘーゲルを教えに来ていたそうな。

答え合わせと漫才過剰考察

お笑い「漫才過剰考察」「答え合わせ」 - 半熟三昧(本とか音楽とか)
令和ロマン2連覇にはおどろいたねー

異次元緩和の罪と罰

簡単にいえば、Withdrawal syndromeを引き起こす薬を常用しているよね、という話だった。

日本人の9割が知らない遺伝の真実

アースダイバー

中沢新一の古典的名著。これは一連の散歩本を読んでいる時に読んだのだが、これに全然学問的な根拠はないということをきちんと知っていても、大変面白い本。ニューアカの人のやりくちって、知に耽溺するにはちょうどいいんだよね。

ありえない仕事術 上出遼平

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割と衝撃的な叙述トリック。うーんこういうビジネス本を読み捨てている現代人、僕のように多いと思うけど、そういう積読の山にこれを混ぜておくと、実に面白いことになる。

伊藤亜和「存在の耐えられない愛おしさ」

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高級店のダークチョコレート、みたいな複雑な味わいのあるエッセイ集。
おいおい、これが第一作なのかい。すばらしいです。

ナイトハイクのススメ

 夜に山に登るという「ナイトハイク」の第一人者。
 怖くてまだまだ手が出せない。

なぜ働いていると本が読めなくなるのか

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書評という「本好き」という狭いマーケットを超えて、ビジネス本という潜在読者数の多いカテゴーリに躍り出て、大バズり。
メディアに見つかっちゃったので、数年は文化人枠として引っ張りだこになるに違いない。
本も、とてもよくできていてうなづける内容ではあった。

平安貴族列伝

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 みんな自分と同じような悩みを抱えているんだ、と思わされ、中年の孤独感を癒してくれる一冊。
 ただし、何かが解決できるわけでもない。

指示通りができない人たち

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 職場あるあるで、激しく首を縦にふる一冊。
 残念なのは、何かが解決できるわけでもないところ。解決法があったらいいのに…

その他、

還暦不行届、君のお金は誰のため、教養としての歴史小説(今村翔吾)、 脳の闇(中野信子)、
動乱の日本戦国史本郷和人)、オルクセン王国史、キリンと雷が落ちてどうする(品田遊)
Blank Page(内田也哉子)、オッス!食国、人間はどこまで家畜か
仕事の辞め方(鈴木おさむ)わかったつもり
変な家2 変な絵 近畿地方のある場所について 三日間の幸福 新世界より

本はそこそこ読んだけれども、系統的に読んでいないので、自分の身になったかというと微妙な気もする。
そういう知的体力(持久力)も落ちている雰囲気がある。せめてアウトプットくらいはコンスタントにしないといけないと思った。

*1:一応アマチュアながらミュージシャンなので…

*2:多分うっすら寂しいのだと思う。人の声が聞きたくなる

*3:ちなみにその前は食べ物ラジオにもはまっていた。今は基本的にはOver the sunとコテンラジオを聞いている。

*4:そろそろコテンクルーにならなきゃ…

*5:お恥ずかしい話ですが、ゼロ年代内田樹を読み、10年代は橘玲を読む私。ちなみにゼロ年代前半は田口ランディだった。嗤いたければ嗤えよ!

2024買ってよかったもの【モノ編】

あけましておめでとうございます。ついに2025年かぁ…(遠い目)

戸外活動

2024年は歩いたり(ウルトラウォーク参加2回、完歩1)山に登ったり(YAMAP的には195座。獲得標高62543m)、走ったり。
とにかく屋外で運動していました。買ったものや興味もそこに限定しているような気がする。

Paagoworks Rush 20

[PaaGoWORKS] ラッシュ20 RP304 Shadow gray

[PaaGoWORKS] ラッシュ20 RP304 Shadow gray

  • PaaGo WORKS(パーゴワークス)
Amazon
ザック。歩いたりユルジョグにちょうどいいのですが、半日〜一日低山の際もこれ使ってるような…

KHAMPA LA PACK (サコッシュ

カンパラパック | WANDERLUST EQUIPMENT

すんでのところでアークテリクス"マンティス"を買うつもりだったのが、誰かのYoutube記事で購入。
防水のサコッシュとして便利。
最近はザックに取り付けてチェストポーチとして使うやり方で多用している。

靴;HOKAの靴全般。

Bondai , Speedgoat 5-6 , Skyflow , Transport。
HOKAに終始したが、2023年に靴を履き潰し続けたのに比べると、用途に限定して使うことで、靴の長持ちには成功した。
現時点では靴箱の靴の多くがうっすら底が擦り減っているものが複数存在しているので、2025年初頭に買い替えが必要になりそうだ。

NEMO tensor all season (エアーマット)

中国自然歩道を連泊で踏破しようと思ってた時に購入。
いいものだと思うが、いまだにテント泊・小屋泊したことないの。

NANGA minimarhythm half (シュラフ

同じくUL的な寝床として購入。ちゃんとしたシュラフに比べると圧倒的に軽いのである。
今は時間拘束の長い仕事の時の昼寝用に絶賛活躍中。

Arct'ryx Norvanジャケットとデルタジャケット

今年は薄くて軽いががっちりゴアテックスのレインシェル Norvan jacket大活躍。
しかしNorvanベストは容量の問題でRushにとってかわられる。
捨てるnorvanあれば拾うNorvanあり。*1

今治タオルてぬぐいいろいろ

山行・ジョギング・ウォーキングで汗を拭いたりするのに大活躍。
何度か落として無くしたのだが、ヘアゴムを利用して留めるようになって失くさなくなった。
なので坊主なのに、手首になぜかヘアゴムをつけているおじさんと化しています。

スーパーメリノウールM.W.サイクルアンダーシャツ(モンベル

モンベル | オンラインショップ | スーパーメリノウール M.W.サイクルアンダー シャツ
自転車用ということらしいが、服の表側はメリノウールシャツ。しかし背中側はジオライン(メッシュ)。
長くリュックを背負って活動する場合に、この機能がめちゃめちゃ役に立つ。
あと、地味に普段着の下着もほぼほぼジオラインになってしまいました。ジオラインいいよジオライン。

5本指ソックス itoixとinjinji

詳しくは100kmウォーク 考察編 - 半熟ドクターのブログ参照

Fieldoor ウルトラライト エアピロー

地味に活躍した。寝るクッションとしても多用したし、野山で座るのにも多用した。
……汚ねえな!

それ以外

Kindle Paperwhite

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本を読む目的で購入。最近あまり稼働していないが、これで漫画以外の本を読む機会は確実に増えたのは確かだ。

Veilance NOMIN

Nomin Packarcteryxtokyoginza.jp
普段使いのバックパックとして、これを迷いに迷った挙句購入。
まあまあの値段の割には全然高級感はない。クワイエットラグジュアリーにしてもクワイエット過ぎへん?と思う。
生地が、意外に擦れによわくて、劣化が速いこと、カナダ発のブランドだけあり、容量としてはちょっとデカすぎるところが
難点かとは思うが、ミニマルデザインの極み、かなと思う。
でもグランヴィルの方がいいかも。

Lardiniのジャケット

いわゆる紺ブレを買い直した。
昔に比べるとこの手の高級ジャケットが高くなった。去年の大きな買い物ってこれくらいかな。

まとめ:

完全に2024年は「お外の年」だった。
体を動かす、というのは、肉体的に老いが隠せなくなったアラフィフなりの抵抗なんだろう。

幼少のみぎりから運動らしい運動をしてこなかったので、老いた今の自分が自己ベストなのだ。
いかに走るタイムが遅かろうが、20代の頃よりは遥かにマシ、というのは面白い。

ただ、バランス感覚や翌日の疲労の残りなどで、老いはやはり隠せない。
無理しすぎないように無理をしていこうと思う。

*1:Norvan ベストは息子が多用してくれているので無問題。

新世界より』貴志祐介

以前に「悪の教典」を本とコミカライズで読んだ記憶がある。
誰かに勧められたので読んでみた。

面白い。舞台はいつの時代かわからない。文明は大きく後退しているけれども未来の話のようだ。

虫瞰的な視点で、徐々に明かされる世界の秘密。
ワクワクドキドキの冒険行。

私は「世界の終わり」つまりポストアポカリプスものは大好きなので、楽しんで読めた。
それにしても全くのゼロベースで世界を描くのは大変だろうなと思う。

アメリカファーストはこのシナリオを具現化するか『「世界の終わり」の地政学』

トランプさんがアメリカの大統領となったが、その前に読んでいた本。
おそらくトランプだろうがハリスだろうが、アメリカの大戦略はかわりない。

本書の内容は比較的シンプルで、

  • パックス・アメリカーナの時代は、アメリカが自国の利益を度外視して世界が平和でありつづけるためのコストを支払っていた。
  • 冷戦後の世界の平和によって国際的なサプライチェーンが形成され、それにより移動・交易のコストが劇的にさがり、東アジア・東南アジアを中心に多くの国が平和から得られる利益を享受した
  • だが、アメリカはその力を失いつつあるし、そもそもそういうインセンティブもない。
  • 従ってアメリカは国際的な平和を維持するのを止める。となると世界はブロック経済化する。
  • アメリカ本国は天然資源も豊かであり、人的資源も豊富であり、その体制になってもさほど困らない。

 ではどうなるかというと、おそらく中国と東南アジア諸国については不利益を被る。
 特に中国に関してはおそらく国体を維持することが不可能になるのではないかという予想だ。

 では日本は…というと、被害は限定的であるように思われるが、ただ食糧問題に関してはかなり脆弱であるらしい。

 興味深い本であるので、ぜひ手にとってみられると面白いのではないかと思われる。
 各分野について、それぞれの地方のそれぞれの国についての注意点などが書かれている。
 
 私は医療系の人間で、完全にドメスティックなので、直接業務には関係しないが、国際交易を行なっているメーカー系の会社であれば、目を通しても損はないのではないかと思った。

 ただ、本書は地政学的を重視するあまり、インターネットなどで世界がフラットにつながっている現状を過小評価しすぎているようには感じたけれども。

お笑い「漫才過剰考察」「答え合わせ」

漫才過剰考察

あるポッドキャストでこの本を取り上げられていたので、何の気なしに読んでみたら面白かった。
著者は令和ロマンの高比良くるまさん。

実はここ最近の僕はお笑いへの興味をやや失っており、令和ロマンもそんなにきちんとみていなかったりしたのだが、2023年のM-1優勝への布石とか、そこをめちゃくちゃ深掘りで考察している話だった。
おもしろかった。
賞レースM-1の舞台裏、得点に絡むさまざまなファクター、をかなり詳細な考察だった。
面白いのは、M-1を参加者という視点で「どう面白い漫才をするか」という観点ではなくて、M-1というのを単に賞レースではなく、一つのコンテンツと考えて、そのドラマの中でどう振る舞うのか、というメタ視点での考察がなされていることだ。
実際に、本人は、出場順によってよりふさわしいコンテンツがあるという信念のもとに、ネタは4〜5種類準備して出場順や状況によって変えるつもりだったらしい。
 なるほどなーと思ったけど、そんなことしているのは歴代出場者の中でも令和ロマンだけで、
その分析を態度を余すところなく書いているのが、非常に面白かった。

とても面白かったけれどもKindleにてよくある、文字が画像化されていて線を引いたりできないところだけ減点。

石田明「答え合わせ」

こちらはNon-Styleの石田さんのお笑い論。
これは先ほどの過剰考察の、「今賞レースにいどんでいるプレイヤーの生々しいレポート」というのとは少し違って、20年以上やっているお笑いグループの、総括、という感じになる。
とはいえ、こちらも非常にわかりやすく、言語化もされていて深くうなずける内容だった。
これは、もう今の時点での「お笑いの教科書」と言ってもいいかもしれない。

お笑いを消費する側にしても、発信者がこういう感じで考えて作っているんだというのをうかがいしれるのは、コンテンツの消費の視座が高くなるので個人的にはとても興味深く読めた。

お笑いって、奥が深い。
そもそも笑いとは何かということがよくわからないのに。

『サイバースペースの地政学』『従属の代償』

軍事ものの新書二つ。

サイバースペース地政学

ウクライナ関連でも有名になった小泉悠さん、小宮山功一郎氏の共著。
「サイバー犯罪」とか「サイバー攻撃」とか漠然というてますけども、実際にサイバー攻撃って「どこ」に攻撃を受けるの?という話。
インターネットは場所を感じさせず世界を繋げることができるけど、リアルなインターネットのインフラってどうなっているのか、そしてデータセンターみたいなものがどこにあって、どうなっているのか。みたいな話。

ほとんど知らない話なので、勉強になった。
以下、備忘録

  • 現代は情報を燃料にして走る時代。情報が価値を生む世界に住んでいる
  • コンピュータは電気を食う。初期の計算機ENIAC起動時にはフィラデルフィアの街中が暗くなったという言い伝えも残っている
  • インターネットは「中央集権型から自立分散へ」というキーワードがあるが、実際には黎明期からデータは集約される運命をたどる
  • 1990米国ではエクソダスとフロンティアグローバルという二つの企業が需要をわけあっていた
  • 証券取引書はシステムの近くのラックを高値でレンタルするという独自のコロケーションサービスをはみめる。
  • エンタープライズデータセンター、ハイパースケールデータセンター、キャリアホテル。三つの形態。
  • データがもつ重力=データ・グラヴィティ
  • 長崎は昔からサイバースペースの玄関口(1871年海底ケーブル敷設)
  • ケーブルシップは世界で50-60隻
  • 地球上の総電力のうち2%をデータセンターが占める
  • AI時代のつるはしは電力消費が激しい
  • 実際のデータセンターは普通の人間にとっては快適とはかけ離れた過酷な場所

『従属の代償』

こちらはミサイルの話。
現代日本をとりまく中距離ミサイル事情。日米の核密約。米ソのキューバ危機など。
いわゆる第二次世界大戦後の「ミサイルの歴史」「核の歴史」を総覧できる一冊。

現在日米は軍事作戦として一体化できる段階らしい。ミサイルの指揮系統は共通化されている。
この辺も、あまり詳しくは語られない情報なので、こういう新書でさらっとOverviewできるのはありがたいこと。へー、という情報だらけだった。

個人的には日本の核不拡散条約や非核三原則というのは尊重したいとは思うが、
私も日本に住む日本人なので、自分が核攻撃にさらされる、もしくは核保有国の恫喝にさらされたくない。これが第一義である。
ただ、その辺を追求すると、非核三原則であるとか、唯一の被爆国としての態度としてどうなのか、みたいな話になるわけで、いやはや難しい。

著者の主張は、「日本って中国などの(非民主国家)などの挑戦から民主主義を守る」という大義を掲げながら、国内の民主主義をおろそかにしていませんか?
確かにそうだと思った。
日本政府はこのあたりのデリケートな情報を一貫して公にはしておらず、民主主義による意思決定というプロセスを踏んではいない。
その意味ではアンフェアではあるし、民主党政権が頓挫してしまったのは、この辺りの事情の引き継ぎがうまくされていなかったからでもある。
しかしこの辺は日米安保とか軍事協定をつまびらかにすると、結局日本ってアメリカの緩やかな植民地であって民族自決権ないやん…
みたいな現実にぶちあたって政権がとびかねないしなあ…みたいなところだよね。難しい。

生活保護について知ったげな事を言う前に『貧乏人の経済学』くらい読んだ方がいい

途上国への援助・開発に携わっている方々の知見をまとめたもの。

貧困研究は、ここまで進んだ! 食糧、医療、教育、家族、マイクロ融資、貯蓄……世界の貧困問題をサイエンスする新・経済学。W・イースタリーやJ・サックスらの図式的な見方(市場 vs 政府)を越えて、ランダム化対照試行(RCT)といわれる、精緻なフィールド実験が、丹念に解決策を明らかにしていきます。

日本にのうのうと住んでいる僕らはこのような開発途上国の実情というのはわからないわけだけれども、
まあ、先進国で中産階級として生きてきた人の「常識」というのは、あまりあてはまらない。
途上国での開発問題は、非常に難しく、思ったようには身を結ばないようだ。

そもそも世界の貧困問題の専門家には対立する2派があるらしい。
ひとつがジェフリー・サックスに代表される「貧困の罠」論者。この罠から抜け出すための富裕国からの援助が必要だという人たち。
ひとつがウィリアム・イースタリーに代表される海外援助反対論者。援助は地元の制度を歪ませ自立を阻むという考え方。

この本では、この二つの立場を尊重しつつ、現実は予想通りにいかないということを豊富な実例とエビデンスをもとに紹介している。
それぞれの章で食事・医療(くらし)・教育・大家族(子供)・貯金・ビジネスなどそれぞれのカテゴリーごとに膨大な実証を引用しつつ、論じられている。

一読した結論は「貧困対策は難しい…」ということ。
大抵、貧困で困っている方々の状況をくみ取り、情報を聞き、それに沿うように対策をたてて、政策を作るわけだけれども、
思った結論にいかない、という例がとても多い。
貧困状態にある場合、とりまかれている状況や情報の非対称性なども大きいためか、意思決定のプロセスがだいぶ違うように思われる。
それは、別の階層からみれば「貧困の不作為」であるとか「怠惰」であるとか「愚か」であるとかそう言うふうにとられやすいが、どうやらそうではなさそうだぞ…ということが豊富な実例でみてとれる。

読んでいて、仕事で「生活保護」の方に接した時のモヤモヤした感じに非常に似ていると思った。
そう。日本においては「生活保護」世帯の方は、この開発途上国貧困層の方に、おそらく置かれた状況が似ているがために、やはり意思決定のプロセスの「ゆがみ」が似ている印象がある。

例えば、生活保護の人がタバコを吸ったりギャンブルを吸ったりするのがけしからんという意見があったりして、過激な意見では金銭を支給せず「フードスタンプ」のような必須の食事を支給するようなことをしたらいいのではないか?という意見もよくある。

ただ、この話は世界共通の話で、最貧国で最低の階層、1日1ドル以下で過ごしている人でさえも、必須の栄養(安い炭水化物)にお金を費やしているわけではなく、やはり、酒やギャンブル、タバコなどの支出が少なからぬ比率を占めるという。そしてこうした人々に援助を行っても、そのお金を主食に費やすわけではなく、摂取カロリーが増えないらしい(タンパク質の比率が増えてカロリーベース以外では質の向上はあるらしい)
医療に関してもそうで、貧困層の方々は、疾病や怪我に対する手術や薬に関しては大金を支払う傾向にあるが、例えば非常に安価ではあるが健康に対する効果の多い施策(例えばワクチン接種)については無関心である比率が高い。こんなのも、世界の話ではなく日本でも共通しているように思われる。

逆にいうと、生活保護の方、生活保護世帯の方々の行動や言動に対して、みんな割と自分の立場で批判をしがちではあるが、
おそらく、意思決定に必要な諸条件が、我々とは全く違うということを、もう少し考えた方がいいように思う。

X(旧Twitter)とかみていると、生活保護の方に対する侮蔑的な視線・コメントというのをふんだんに見ることができるが、
たとえば、病院の地域連携室や市の生活福祉課で実際に生活保護の方と接することの多いような職種の人は、少なくともこの本に書かれている内容くらいは一度は読んでいて損はないなあと思った。
かなり膨大で高度な内容ではあり、僕にとっても理解は難しい内容ではあった(というよりは、目から鱗が落ちる、的な本ではないから)が、生活保護の方に対して通俗的なイメージが悪すぎるので、こういう開発援助の方々がすでに経験されているこういった「矛盾」というのは知っておいた方がいいと思う。

ただ、「貧乏人の経済学」というタイトルはいかがなものかと思う。
なかなか人に勧めにくいし、本のタイトル自体がかなり議論を呼びそうだし。