半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『検証 ナチスも「良いこと」はしたのか?』

前日エントリの「生かされて」。
halfboileddoc.hatenablog.com


対比としてナチスドイツのユダヤ狩りとホロコーストというのを挙げた。
実際ナチス・ドイツの政権というのは、ヨーロッパ全土を戦火に巻き込み、二正面作戦で自滅のような軍事的な敗北をきたして、敗北し、いいことも悪いことも含めて、地上最大の悪徳として現在は評価されているわけだが、だが政権の序盤・中盤では華々しい軍事的勝利を手にしていた時期もあったし、ドイツ人民には支持されていたのも事実である。

それにヒットラーベジタリアンで、酒・タバコもやらず、芸術を愛し、よくある独裁政権の首魁にあるような酒池肉林でもなかったりするわけである。

実際のところ、ナチスのやったことはすごいあかんことが多いわけであるけど、例えば、ソ連スターリンがやったことだって、ヒットラーと比べもタメはるくらい自国民を殺害している。けど、ソ連は連合国勝ち組なのでそこまで断罪はされなかった。
毛沢東も)

一般的には、「物事には良い面と悪い面があるはずだ」という真理がある。
実際のところ、フラットにみて、ナチスっていうのはどうなんよ?という本。

  • ナチスの家族政策・福利厚生はかなり手厚い=民族共同体を構築するための手段の一つ
  • ナチズム=国民社会主義国家社会主義という訳語が当てられることが多いのだが、意味が少し異なる
  • 国家よりも民族共同体の連帯を重視する政権(民族共同体の敵であるユダヤ人などを徹底的に排除する)。包摂と排除のダイナミクスこそがナチ体制の本質
  • ヒトラーにとってナショナリスト国民主義者であることと社会主義者であることはほぼ同義
  • ヒトラーの権力掌握は民主主義の自己破壊を本質とするもので、民意を背景にそれを遂行したという意味では基本的に「民主的」
  • 社会的反ユダヤ主義は残念ながら当時多くの国々に存在した
  • ナチ体制の政策に「乗っかる」ことで政治目標とは程遠い個人的な利益が得られたという面が大きい。
  • ナチ体制は同意と強制のハイブリッドによる現代的独裁
  • ヒトラーが政権に就いてわずか数年で雇用状況が劇的に改善され失業問題がほぼ克服されたことは事実。ナチ政権初期の雇用創出・失業対策がそれに先立つパーペン・シュライヒャー両政権の政策を基本的に引き継いだもの。規模の大きさを除けば、ほとんど画期的な内容を含んでいなかった
  • アウトバーンは軍事目的ではない(戦車のような軍事車両は通行できない。目的はヒトとモノの輸送)
  • 歳入を大幅に超える財政支出と空前の規模の公債・手形の発行 失業解消と景気対策に決定的に寄与したのは、戦争準備のために異常な規模とテンポで進められた軍備拡張
  • 諸外国からの収奪は、ゲッツ・アリーによれば少なくとも総額97兆6000億円に上る
  • ナチ・ドイツによるユダヤ人財産の略奪総額は八兆六千億円〜11兆5000億円(ドイツの戦時収入の5%に相当)
  • 戦争捕虜を国内の労働に動員(戦時期にドイツ国内で働いた外国人労働者は1348万人程度、そのうち18%の245万人が命を失った)
  • 労働政策の福利厚生・家族支援=実際は空手形

まとめると

「デートレフ・ポイカートが的確に表現しているように「ドイツ人は最初は借金で生活し、次には他人の勘定で暮らした」のだった。

というところが本質であるようだ。もちろん共同体の質を高めるための健康政策や福利厚生などに、現代からみても羨むべき社会政策はあるのかもしれないが、そもそもが、富の収奪とアーリア国民だけが富み栄えるような政策が、ナチスの本質であるわけで、本質的な問題の中では氷山の一角にすぎない、というところだろうか。

個人的はタバコは好きではないので、公共の場所での喫煙を禁止とか、そういう政策はありがたいなあとは思うけど。