ナチス・ドイツのイメージはともかくとして、性愛についてナチスはどのような政策をとったか、という記録。
ナチス・ドイツはユダヤ人の虐殺、第二次世界大戦などを含めて「悪の政権」ということになっている。
しかし個々の政策に特色はあったのか、中にはいい政策もあったのではないか?
みたいな議論もあってもいいのかもしれないが、基本的には議論の対象にはしないことになっている。
善悪が相対化されるからだろうか。
この本は、性愛に関してはナチスはどうだったのか?という話。
富国強兵策ということで、殖産は奨励されたわけで、異性間愛は奨励され、同性愛は迫害された。
(突撃隊長のレームが同性愛者であったことは暗黙の事実だったそうだが、彼の粛清もそのあたりが関係しているとかいないとか)
殖産につながる性愛活動は奨励され、その意味で性欲の充足は奨励された。
「健全な性生活」が奨励され逆に街娼などの生殖につながらない放埒な性行動が推奨されたわけではない。
基本的には男尊女卑ではあった。
とはいえ、ヒトラーを除いた幹部連中の性規範はかなり逸脱していたようで、愛人が沢山いた幹部も多かったようだ。
しかしナチス・ドイツの「選民思想」とアーリア人の純潔性と「健全な性生活」はある種現在の自由な性規範とは相容れない部分もあるわけで、支配欲と性欲は表裏一体の現象。大戦末期になると、出兵しているドイツ男性がフランスでアバンチュールにいそしんでいることをよく思わない国内ドイツ人女性が、ポーランドほか占領国から輸入されたドイツ国内の労働者と不貞に走りまくるような現象に頭を悩ませていた、みたいなこともあり、大戦末期の混乱期には、アメリカ・ソ連からの占領軍がドイツで何をしたかも含めて、あまり声高には語られることはない阿鼻叫喚の状態ではあったようだ。
そういったナチス・ドイツの性に関する態度は、性愛の専門家の注意を惹くと見えて、B級劇画などにも反映されている。まあこれは、エロスとタナトスの対比という意味で大量虐殺国家が対比しやすいだけかもしれない。
空手地獄変でもナチス残党とかでてくるけれど、ハードSM的なモチーフには結構ナチスを彷彿とさせるデザインを見て取ることができますよね。
halfboileddoc.hatenablog.com
最近「第三帝国」という新書も読んだが、
halfboileddoc.hatenablog.com
これも、ナチス・ドイツに関する入門書。
ヒットラーの若者時代から政治家への変遷、ナチスが第一党になり政権を握るまでで半分。その後半分という構成で、通読するにはちょうどよい内容だとは思う。この本は政治体制に力点がおかれており、軍事についてはあまり詳しくはない。むしろ、ワイマール共和国の政治制度からナチスという独裁体制に法の枠組みをいじることなく移行できたのはなぜか、そしてナチス・ドイツにおける意思決定システムはどのようなものだったのか。
まあ結局はナチス・ドイツは、ヒットラーがすべての意思決定を行うシステムであり、非常に属人的な体制であるという風に言える。もっとクールに言えば、規模の問題で組織の体制を変えなければ遅かれ早かれ破綻するシステム、とも言える。中小企業のトップである自分にとっては、背中が薄ら寒くなるような話だと思った。
トップが何でも決めるシステムは、サイズによってはうまくいくが、サイズが大きくなると、逆に発展の妨げになる。なんでも自分で決めちゃいかんのよ……