オススメ度 90点
やっぱり人間というものに期待してはいけないのか度 100点
- 作者:ウルリヒ・ヘルベルト,小野寺 拓也
- 発売日: 2021/02/10
- メディア: Kindle版
ドイツ人によって始められたこの戦争が終わったとき、そこにあったのは、近代の歴史において、いまだかつてなかったような軍事的、政治的、そして道徳的な敗北であった。
つい、最近でた新書。TwitterかなんかのSNSを通じて買ってみた。
筆者はドイツにおけるナチズム研究の第一人者。
司馬遼太郎や岸田秀などを読んでいたら、昭和の日本軍部というのは、「昭和の鬼胎」であって、格別残虐で非人間的で、なおかつ愚かである、と考えて憂鬱になってしまうけれど、上には上がある。
第二次世界大戦史や、ドイツ第三帝国のあたりの描写を読んでいると、いくら過去のことだって、胸糞が悪くなる描写。
これが事実だなんてね。
今の世の中は、運動部でパワハラがあることが問題視されたり、女性を入れると会議が長くなるなんて発言が国際的に論議を呼んだりしているけど、
いやはや、隔世の感がある。
ナチの東欧支配は、いわゆる植民地支配を同じヨーロッパでやろうとしたということで、アフリカで西欧諸国がやっていた植民地支配に近い形態を同種民族間でやったということ。*1、ドイツ帝国のアフリカ植民地での紛争解決に、後のナチズムの弾圧に近い形はみてとれる。
この蜂起を、徹底的な残虐さをもって鎮圧した。ドイツの部隊は、蜂起した諸部族の根絶を目標として、正真正銘の絶滅戦争を遂行した。六万人以上のヘレロがその際命を失ったが、これはこの部族の人口のほぼ八割に相当する。ここでは、野心的ではあるものの植民地政治にほとんど経験のない大国が、よきせぬ抵抗に遭遇して、より一層過激で残忍なやり方で抵抗する「原住民」を鎮圧することで、みずからの不安を押しつぶそうとしたのである。
(中略)
同時に、ドイツ部隊のやり方は帝国議会や新聞において自由主義者や社会民主主義者によってきわめて厳しい批判を受けた。もっともそれらは、軍隊や急進的ナショナリズム勢力のあいだで、議会や民主主義的な人々に対する反感をさらに強める結果となった。
この原型を、ナチス第三帝国は東欧でかつてないスケールで遂行したわけで、大戦末期には、入植していたドイツ人は、日本における満蒙開拓団と同様にひどい目に遭った。
* * *
なぜナチズムがドイツで政権を掌握するに至ったのか、それは偶然だったのか、必然だったのか、というところは、ドイツ人にとっては切実な命題。
筆者はそこにできるだけ誠実に謎解きをしようとはしている。
結論からいうと、ナチズムが政権を掌握したあとは、特に民族的な紐帯を強調したせいで、新ナチでないドイツ民族主義者を包摂する力があったということと、戦費の調達の多くを占領した地域の資源によってまかなったため、ドイツ国民は戦争末期まで相対的に豊かな生活水準を享受し、ある種の共犯関係にあった、ということかしら。
それにしても、やっている行動のえげつなさはスケールが違うけど、人類は進歩していないのだろうか。
国家学者ヨハン・プレンゲによれば、近代工業社会は、自由主義や個人主義の原則によって組織するには、あまりに複雑なものである。そんなことをすれば、階級闘争や道徳的退廃・国家の死滅につながる。
それにたいして「コーポラティブなドイツ国家社会主義」においては、個々の利益は全体の思想によって一体のものとなる。自由は結びつきの欠如ではなく、組織によって得られるのだと。
(中略)
ここで問題となっているのは、近代をめぐるもう一つのコンセプトであり、そこではナショナリズムと社会主義は融合し、個人の自由は集団の自由によって制限を受ける。つまり彼らによれば、近代の挑戦にたいする正しい回答は民主主義と自由主義ではなく、軍隊と組織にこそあるのだ
これは、第一次世界大戦の際の軍事独裁体制の時の論調である。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する西欧諸国と中国の態度のことを論じているものとほとんど変わらない。
中国は、個人の自由よりも集団の利益を優先するイデオロギーで国家を管理しているけれど、WWI、WWIIのドイツはその体制でいって見事に失敗した。
ただ、だからといって、そのコンセプトそのものに致命的な欠陥があると証明されたわけでもないのも事実だ。
たかが80−90年前の出来事。今生きている世界からは想像もできないが、ユーゴスラビアやルワンダ内戦などをみていると、現代の我々だって、いつ同じような悲惨な目に遭うかどうかわからない。
極東地域が戦乱に巻き込まれる可能性だって、ないとは言えない。
世界は一定方向に進歩してより非暴力的になっているわけでもない。
日本だって「大正デモクラシー」という比較的平和で民主的であろうとした時代から20年後には悲惨な戦時体制になっている。
いやだなあ…
以下の過去エントリはご興味あればどうぞ。もちろん、本もオススメです。
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