半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『戦争は女の顔をしていない』(コミック版)

オススメ度 100点
東欧〜ロシアの大地の凄惨さよ…度 100点

戦争は女の顔をしていない 1 (単行本コミックス)

戦争は女の顔をしていない 1 (単行本コミックス)

もともとはスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチというノーベル文学賞とった人の作品をコミック版にしたもの。
Twitterかなんかで出てきたので買って読んだ。

独ソ戦に参加した人たちに、取材して聞き取った記録。

日本人の戦争体験というと「太平洋戦争」。
これはこれでかなり悲惨な大量動員戦争なわけだが、第二次世界大戦の、東部戦線ほど悲惨なものはなかっただろうなと思う。
民間人の死者をいれるとソ連は2000〜3000万人が死亡し、ドイツは約600〜1000万人。

日本は島国なので、アメリカも空襲(今風に言えば空爆だろうか)だけ。
まあこれだってかなり悲惨だし、貧相な物流のための飢餓もかなり問題ではあった。
しかし広大な大地すべてに大量の軍隊が来襲し侵略する、というのは悪夢以外の何者でもあるまい。
自分の住んでいる地域に、大量の異国人がやってきて家や畑を蹂躙し、なんなら略奪・強姦だって当たり前。
自分の家を橋頭堡にしてドンパチおっぱじめられた日には…。控えめにいっても地獄。

この辺りを総括した本としては、これがもっともオススメだ。
halfboileddoc.hatenablog.com
分厚いコンクリートで殴られたようなショックが味わえる。
(ただし、分量もコンクリート級…、根を詰めて読んでも一週間はかかるだろう。1ヶ月くらいかかってもおかしくないかも)

そこを生き抜いた人たちの記録は、やはり筆舌に尽くしがたいものがある。
この手記は、ソ連軍に従軍した女性達の体験記。
文字通りの全面戦争なので、女性も全員ではないが戦場で活躍したようだ。
が、なにぶん物資不足でもあり、ナプキンなども十分に支給されないので、男物の服しか支給されないなか、下着の袖を切ってナプキンがわりにしたり、ボタボタ赤い染みを道に落としながら行軍するとか。
ズボンは血が乾ききってガラスのようになり歩くと擦れて傷だらけになってしまう話だとか。
負傷兵を担いで命がけで回収する救護兵の話とか。
はっきりとは書かれていないけど、どうみてもPTSDになっちゃったような戦後体験記であるとか。

こうして漫画化されると、この凄まじい状況をわかりやすく垣間見れて、参考になった。

しかし、ソ連は戦争に勝利するんだけど、その後もスターリンによる独裁、粛清の社会は続く。
東欧も鉄のカーテンに覆われてしまって、自由に物が言える社会にはならなかった。
だから、日本のように「戦争は終わった!あー平和だ!」という風ではなくて、
独ソ戦の体験記のようなものがあまり表に出てこないのだと思う。
ポーランドなんてどえらい目に遭っているけれど。イデオロギー的に断絶があって、あまり伝わっていないのは残念なことだ。

それに、歴史を遡ると、モンゴルやフン族も含めて、あの辺りは、多民族の侵略・蹂躙が比較的頻繁に起こる。
だから独ソ戦も、ことさらに際立って悲惨という印象を持たれにくいのかもしれない。
(とはいえ、規模としても最大級に悲惨だとは思うけれどもね)