オススメ度 100点
一見陰謀史観に見える度 100点
「戦争で最初に犠牲になるのは真実である」ハイラム・ジョンソン
2017年9月ごろに買って読んだ本。紹介が遅くなったが、結構オススメな本である。
一言で言うと、複眼的な視点を組み合わせないと、実相は見えてこないよ、という話。
歴史を過去に振り返ってみれば、そこには棋譜のごとく、一本の道筋が示されている。
けど、決してその道は必然的なものではない。
その当時当時には、対立する考えや、意見の異なる他者がいて、そういう複数の意思決定の相克によって歴史は形作られる。
その当時の考え方や視点を複数知らないと、結局のところ、歴史の流れを理解したことにはならない。
現在。未来がまだ見えない状態では、複数の未来予想がある。
結果的に一本の道が選ばれ、歴史として決定するわけだけれど。
それを有効に予想するためには、決定した過去の歴史を勉強するだけではダメで、
ある過去の時点での複数の未来予想も含めて重層的に理解するという知的作業が必要。
この本には直接はそういうこと書いていませんが、そういう事例が山ほど積み上げられた本でした。
逆に、教科書の歴史から、一歩踏み込んだ、生きた歴史を知るためにはいい本。
* * *
こういう作業が必要なのは「歴史修正主義」がかならずあるから。
現時点での歴史は、今現在の政治体制からみた正当化を多分に含んでいる。
濃淡の差こそあれ、現代の為政者から不都合な視点が敢えて語られることはないから。
歴史は「真実」の集積ではない。
正史否定という意味で存在するのが「陰謀史観」と言われているようなものである。
陰謀史観がすたれることがないのは、陰謀史観にも一片の真実が含まれているからだ。
でも、陰謀史観は、アンチテーゼすぎて、これも理性的でもない。アンチ巨人、みたいなもんだ。
おそらく、真実は正史と陰謀史観の間にある。
どちらにどのくらい近いのか、というのはケースバイケースで、事実を積み上げていくしかない。
この本はそういう複眼的な思考をするのにとても役立つ本だと思う。
教科書的な歴史の理解よりも、ずっと丁寧。
丁寧すぎて、当該領域の前提知識がない人にはちょっと重すぎるかもしれない。
一例をあげると、インド独立の闘士チャンドラ・ボースの扱いとか。
ノモンハン事件や、悪名高いインパール作戦などは、日本の戦史において評価する限りは、冷静な戦局観が日本軍部の誇大妄想的な作戦ということになるが、反面からみると、つまりチャンドラ・ボースにとっては、インパール作戦は結果こそ失敗ではあったものの、英国軍内のインド兵士の脱走・投降が相次いでおり、もう少し持ちこたえることができれば、全面的に戦局は打開できた可能性はあるし、この時の英国軍の士気低下が、インド独立運動のきっかけになった。
だからといって、大日本帝国が「八紘一宇」の名の下に戦った、ということはできない。しかし、結果としてアジアの独立運動の嚆矢につながったのが事実。
ノモンハンも、近代化したソ連機甲兵団に無謀な戦いを挑んだ日本軍、という従前の見方ではなく、ソ連側の資料ではソ連の被害もかなり大きかったことが判明している。しかし決定的な勝因になりえたのは、日本軍にソ連側へ情報提供をしている将校はいたようだ。ソ連側の機密文書の解析からこのことは示唆されているし、米国共産党も、中国共産党も含め、共産主義側のスパイ活動が、現時点ではかなり証明されつつある。毛沢東はスターリンが死亡するまでは、スターリンの弟分として緊密な連携をとっていたようだし、中国共産党の躍進の影には、日本軍の軍事行動がある(もうちょっと言えば、日本軍は、かなり踊らされていた)