半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

中年男子に安息の生活などない『こづかい万歳』『今夜は車内でおやすみなさい』

私も気がつくと、46歳。社会全体が高齢化しているために自覚しにくいが、一世代前のことを考えると、立派な中年、ともすれば老害である。

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以前この本を読んだ時に、社会・経済的な話はともかくとして「男性にとって女性は不可欠なものだが、女性にとって男性はいてもいなくてもいい」という身も蓋もない結論を読み、大いに納得すると同時に絶望もした。

金があればまだ尊重されるけど、金もない年老いた男性は、冷淡にあしらわれる世の中である。いなくてもいい存在だからだ。
金だって使えばなくなるの。
中年〜初老の男性の醜さは、持ち金を目減りさせずにいかに利得を引き出すか、にあるのかもしれない。

それでは、現代の文明で中年の男性は、どういう価値を持つのか。

『定額制夫のこづかい万歳 月額2万千円の金欠ライフ(2)』

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待望の二巻がでた。
前回とりあげた『ステーション・バー』もでてくる今回の巻。
しかし圧巻は、定額制こづかいでベースがゼロ円という驚異の「持たざる男」の登場だ。

お金をもってものを買うという、一切の欲望を消し去れば、苦ではない…と言いきる男。

甘いものは好きだけど自宅で手作りお菓子を作るので、そちら方面の欲望は充足されるらしい。しかも、そのお菓子を会社で配ったりもする。会社の同僚達はそれぞれ買ってきたお菓子をシェアしてくれるから、一切自分で購入しないのに、色々なお菓子を食べることができて、お菓子にこまることはないのだという。
CDや本とかも、貸してくれたり、不要物の処分とかでみんながくれる。むしろ楽しむ時間が足りないくらいだと。
なるほどなー。評価経済といわれるシステムに近い。
この人はそうやって、ノーこづかいで、彼なりのSDGsを達成できている。
まあしかしそれはかなり特殊な例だ。内田樹の言うレヴィナス翁に似ている。

家族を養い子供を学校にやるために、中年男性たちは文字通り身を削っている。*1
欲を殺し、生活を律して生きている。
それは適当に欲を自制せず生きる独身男からすると、鎖に繋がれた奴隷に見えることもある。

ところが、鎖に繋がれず自由な男の生活も、中年になると色あせてくるのだ。
独りで生きている場合、老いてくると孤独感は累乗されてくるから。*2

『今夜は車内でおやすみなさい』

『チェリーナイツ』『ロボニートみつお』『僕と三本足のちょんぴー』などの作者、小田原ドラゴン氏は、個人的に好きな作家。
大ヒット作もないので、先行きはなかなか不安かもしれない。
今回は、自分自身を、もうちょっと不運な状況にした主人公(かつてシャーク小笠原という漫画家だったが、工場でバイトしているという設定)が、車中泊にはまるという漫画。シニカルな自伝に近い。
車中泊は結構楽しそうだが『ロボニートみつお』よろしく、これから地獄めぐりが始まりそうな予感…
豪華キャンピングカーを自慢するが友達のいない男、とか出てきた。
主人公は典型的なロスジェネ世代の「結婚できなかった独身男性」。
潤沢とは言えない生活資金で趣味の時間を捻出する様は、痛々しくもあるが、リアリティに溢れ、奇妙な感動がある。
それにしても、メンタリティとしてはニートとかに近い。オドオドして、社交性もなく、自意識過剰である。

漫画家の独り者の末路としては、桜玉吉もそうだし、お遍路漫画を書いた黒咲氏などの作品も、同じような厳しさを感じる。
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孤独と引き換えに得られる自由か、それとも家長という名の奴隷か。

現代を生きるのは難しいよ…
若さを喪失した男性は、既婚であろうが、独身であろうが、安寧の中で暮らせるのは一握りなのかもしれない。

* * *

自分だって、今は子供がいて家庭を持ち、社会的な役割もあり、退屈しない人生を送っているが、孤独感というものは、年々顔や首筋に刻まれる皺のように深みを増しつづけている。

まぁ、女性だってそれなりの地獄はあるだろう。男女問わず老いに直面することはなかなか厳しいものだ。

*1:女性もだけどね。

*2:これは家庭持ちの自分からしても感じるところ