半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『独裁の世界史』

独裁の世界史 (NHK出版新書)

独裁の世界史 (NHK出版新書)

リーダーシップの話の極端にすすめると独裁者ということになる。

基本的な教養としてポリュピオスの「政体循環論」というのがありますな。
プラトンアリストテレスにも同様の政体論があるけどね。政治体制は循環するってやつ。

「王制」(バシレイア)
専制」(テュランニス)
「貴族制」(アリストクラティア)
「寡頭制」(オリガルキア
「民主制」(デモクラティア)
「衆愚制」(オクロクラティア)

これは「個体発生は系統発生を繰り返す」と同じくドグマにすぎない。普遍性を確立した法則ではないわけです。

政体の普遍的な法則があったらぜひしりたいものだ。アイザック・アシモフファウンデーションシリーズ』にでてくる、サイコヒストリー(歴史心理学)というものが本当にあったら、こういう政体のありようが定式化できるかもしれない。

* * *

現在の西洋の価値観では民主主義至上、独裁制はよくない!となるけど、優れた専制君主が迅速に物事を決定できるという利点もあるんだよなあ。

ただ前近代では、君主以外の非統治民の人権は著しく制限されていたわけで、専制政治が成立したわけである。
しかし基本的人権を所与のものとすると、
政治体制というのは限定される。敵対勢力を抹殺できない専制政治なんて、竹光侍みたいなもんだよ。

基本的人権のもとでは民主主義もしくは衆愚政のどちらかしかない。
そして民主主義と衆愚政の違いは、お兄さんとおじさんの違いのごとく、クリアカットにわけることは難しい。反対勢力からみると成功した民主主義も衆愚政治にうつるだろう。


まあそんなもやもやを踏まえて、ギリシア・ローマ、フランス・ドイツ(ビスマルク)・ロシア(スターリン)、イタリア(ムッソリーニ)、派閥政治の歴史の概説がなされているのがこの本。

西洋史の一般教養という話を展開したような話で、このグローバル時代には、ちょっと内容としては心もとない気がする。
西洋史に造詣の深い方が特にこの本ために資料を調べたりせずに、教養を生かしてさらっと書き上げた、という本。

個人的には中国、中東の専制君主体制や、ポリネシアの政体など、もうちょっと全世界を俯瞰できる深みが欲しかった。
特にこのコロナ禍には、個人の自由を制限することが感染制御には必須なわけで、民主主義のピットフォールをつかれた格好になっていたわけだし。東洋の専制政治と西洋の民主主義の対比の視点が今一番知りたいことではあったわけで。