半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『57歳で婚活したらすごかった』

オススメ度 90点
地獄度 100点

「クソ老人」と罵られたり、セクシー写真を送りつけられたり……リアルでコミカルな婚活ルポ。
やっぱり結婚したい。57歳で強くそう思った著者は、婚活アプリ、結婚相談所、婚活パーティーを駆使した怒濤の婚活ライフに突入する。その目の前に現れたのは個性豊かな女性たちだった。「クソ老人」と罵倒してくる女性、セクシーな写真を次々送りつける女性、衝撃的な量の食事を奢らせる女性等々。リアルかつコミカルに中高年の婚活を徹底レポートする。切実な人のための超実用的「婚活次の一歩」攻略マニュアル付!

まあまあコミュニケーション能力ありそうなのに、57歳までいってしまうと、「婚活」といってもそうなるのか……

57歳のフリーライター。やっぱり「寂しい」という感情がぬぐえなくなり、結婚したいなと思う。
そして婚活市場にモニタリングも含めてレポート。

「婚活」というものは2010年代恥ずかしいものではなくなったらしい。職場での恋愛などが難しくなってきて、人間関係も目的に応じて組み替えられるようになっている現在、職場においても趣味や地域のコミュニティにおいても恋愛をすることはリスクが多すぎる。特に大都市においては出会うチャンスが少なくなっているので、こういうマッチングは大変に重要であるということだ。

 詳細は読んでいただきたいが、これが今の日本の「プライベート」のリアルなんだな、と感じることが多かった。

 なるほどとうなづいたのは、「結婚しても頑張って働きたい女性は少数派」「できれば仕事をしないで子育てに専念したいかたが多数派」というくだり。(筆者が「がんばって生きている女性が好きです」とタイプを述べた時、担当者が困った顔で返答)
 まあこの辺は、割と古い価値観の「お見合い」の事務所なんだろう。この場合、女性は「若さ」男性は「経済力」の等価交換という身も蓋もない現実だ。

 ただ、57歳の婚活の場合は、そういう定型的な結婚ではなく、むしろ老後の安全保障という意味での結婚という意味合いが大きい。
実は、こういうニーズは今後ものすごく増えてくると思う。単身だと老後病気をしたときに困る。
 昔研修医のときに大きな病気が見つかったときに「家族を呼んでください」といったときに家族が全くいない人はかなりすくなかった。
しかし、今は「家族はいないけど友達でいいか」みたいな人に月に一度くらいでくわす。
 異性・同性問わず、友達間でもいいが、病気になる前に「相互安全保障条約(安保やね)」みたいないのを結んでおいて、各種保証をし合うというサービスができてくるんじゃないかと思っている。*1

 ともあれ、57歳の婚活活動はなかなか実を結ばない(とはいいつつ、それなりに短期間の恋愛に発展したりもしているので、まんざらでもなさそうだが)が、いろんな人間模様とやりとりの果てに孤独感を深めるさまの読み味は「ライ麦畑でつかまえて」の地獄めぐり感に近かった。

挙句の果てには、婚活で費やすエネルギーと時間をもっと自分自身の質の向上に使ったほうが、結婚しようがしまいが幸せにつながると思った。その結果、誰かと手を携えて生きるチャンスが有ればなによりだ。

という身も蓋もない結論に。

一人で生きていく自信があってこそ、自分自身の人間に費やす時間と余力があってこそ、誰かと一緒に生きることができるのではないだろうか。「誰かとともに生きたい」ではなく、「誰かのために生きたい」と思えるくらいの心のゆとり、経済的なゆとりをもってこそ、婚活は成就するのではないのだろうか。

 すごいいい文章が終盤ででてきたが、だからこそ、単身者が世の中に溢れているのではないか、とも言える。

参考:

中年独身の孤独感に心叫ぶような作品は多々あるが、とりあえず結婚するも結婚しないも地獄、という意味ではこれ。
halfboileddoc.hatenablog.com

多分最近交流している若者たちに、桜玉吉といっても絶対ぴんとこないよなあ、と思う。
halfboileddoc.hatenablog.com
伊豆の山奥に隠棲している桜玉吉氏。豪雨は大丈夫だったんだろうか。

このエントリの後半の55歳で四国お遍路の旅に向かった漫画家の人。
halfboileddoc.hatenablog.com

婚活とかいっているうちはまだいい。最終的には困窮する老人になる。
どんなに若いうちに老後の準備をしていても、独居で係累もなかったら、お金を毟ろうとする詐欺の人から身を守るのは難しいのではないかと思う。
halfboileddoc.hatenablog.com

*1:なぜ本人の同意だけではだめかというと、例えば手術とかだと、本人がそのまま意識が目覚めない場合に、同意の書類があるからOKとはならない。その後の治療でどういう方針を取るかというのも、できない。色々大変なことが予想される。治療に影響されない第三者を介しておきたい、というのが医療側の考え