カレー沢薫という作家はシニカルで斜に構えた視点の腐女子というスタート地点であった。
漫画も描けるし、エッセイとかも達者。不器用そうに見えて器用な人だ。
シニカルさも80年代的な自分ら世代にはちょうどいい感じであり*1
割と好きで、読んでいる。
カレー沢薫という人 - 半熟三昧(本とか音楽とか)
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しかし、ここ数年。明らかにうまくなっているのである。
「ひとりで死にたい」は割とベタな老後ハウツー漫画からスタートしたが、その後「生き方」や世代論など、多くの人が悩んでいるテーマに切り込んでいる。
本作もそうで、「シニカル」と「やさしさ」の奇妙な同居に、ハッとさせられるページが多かった。
書きたいことに対して、表現力が追いついてきたような、感じがある。
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もっとも、絵、「画力」のようなものはやはりそんなに卓越したものではない(失礼)だが、漫画表現としては、明らかに巧妙になっている。
さて、この作品。
ペットにまつわる小エピソードの連作短編集なのであるが、これが案外によいのである。
ロウワーな暮らしのなかのペット、ペットとのふれあい、みたいなやつ。
最近画力が上がっていると思ったが、この作品では相変わらずの作風。
生きるのがヘタなだめなオトナが、ペットとの生活を通じてみせる無私で利他の愛情。
ほろりとさせられるような、ええ感じの切り口なのである。
なんなんだ、そんな作家じゃなかったじゃないかカレー沢、と思う。
でもいいのだ。
シニカルな視点は相変わらずで、単なるお涙頂戴にはなっていなくて、そのバランスが、ときにぐっとくる。
*1:本人はもう少し歳下かと思う