半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

カレー沢薫という人

最近、僕のKindleの中に、カレー沢薫さんの作品が微妙に増えてきた。

きっかけは、なんかのキュレーションサイトで。(Cakesだったっけ?)「ブスの本懐」という、キャッチーなタイトルの本が取り上げられていたこと。
コラムの、淡々とした語り口の中に挟まれる面白さと毒が、妙に印象的だったのを覚えていた。
「ブスの本懐」はその頃Kindle化されていなかったので、まず、『負ける技術』と『クレムリン』を買って読んだ。

『負ける技術』

負ける技術 (講談社文庫)

負ける技術 (講談社文庫)

カレー沢氏の日々の生活コラム。
このコラムでも、通底にあるのは自分のブスぶりに対する冷静さ、語彙の豊富さ。
なんてったって、著者の自画像は「陰毛」なのだから。
その自己評価というか「こじらせ」というかは、かなりのところまで到達していると言える。
しかしそんなに手を変え品をかえ自虐的な自分語りができるなんて、なんて語彙が豊穣なのだろう!
結構量もあって、割とお得な本であります。

一方氏の本業であろう、漫画。

クレムリン

確かにモーニングで見たことがあったが、読まずに飛ばしていた漫画であった。
リズムやツッコミなどは一定のクオリティがあるし、ストーリーがつながる4コマとしては飽きさせない。
ローテンションのままダラダラと続く漫画である。いかにも平成の漫画という感じだ。
結構面白かったんだが、二巻まで一気に読んでしまおう、というふうにはならず、そのままにしている。
多分、猫は好きだが、自分は猫アレルギーなのであまり感情移入が出来ないからかもしれない。

やりへん

というわけで、カレー沢薫さんは、語彙力はあるが、画力はほぼゼロの、コラムのような4コマのようなフィールドの人で『漫画家ではない』と認識していた。
だが、この漫画を読んで全然印象がかわった。
コマ割も普通の漫画ですし、絵も、そりゃめちゃうまいとは言わないが(特に柔らかいもの、例えば女体の動きとか、そういうものだと、お世辞にもうまいとは言えない。でも『カイジ』の人よりは上手いと思う)漫画としては全く成立するレベル。
ストーリーやキャラクターは破天荒で、リアリティはないが、まあ面白い。
コラムと、『クレムリン』から推量していた作者の力量を大幅に上回った。

仕事のできる同僚が、カラオケに一緒にいったらやたらうまかった、みたいな感じだ。

アンモラル・カスタマイズZ

アンモラル・カスタマイズZ

アンモラル・カスタマイズZ

なるほど。多分、作者としては成長途上で、「クレムリン」から「やりへん」の間をつなぐ存在なんだろう。
絵はやっぱり下手で、視線がところどころ変だったり、デッサンはすごく狂っていたりする。
けど、ストーリーはなかなか共感をさそうものだった(ビルドゥングスロマンになっているのがよかったのだと思う)。
やはり極端な設定の中で、キャラを動かすのは、作風なのだろう。

「ブスの本懐」

ブスの本懐

ブスの本懐

かなり面白い本。
『負ける技術』と基本的には変わらない。
ただそれはマンネリというよりは、むしろ安定の面白さ、と形容してもいいと思われる。
読んで面白いのだが、作者も書いているように、結論めいたものもないし、後に何も残らない。
でも、破壊力のあるツッコミフレーズにハイライトをつけていくと、20−30個くらいになったので、多分微妙に自分の文体や会話でのフレージングに影響していると思う。

というわけで、カレー沢薫、面白いです。
コラムにおける毒をもったフレーズの貫通力はナンシー関のようであるし、メジャー誌の中でぞんざいに扱われる画力軽視のギャグマンガという意味では「チェリーナイツ」の小田原ドラゴン先生のようでもある。みなさんも是非一度ふれてみてください。