半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

なんか方向性がかわってきた『こづかい漫画』と『ひとりで死にたい』

この二つの漫画については、過去にも取り上げた。相当衝撃的だったからだ。

まずは、小市民のお父さんの小遣いの話からはじまった『定額制夫…(以下「こづかい」とする)』
halfboileddoc.hatenablog.com
初めて出た時は割と悲鳴が上がっていたよなー。


一方、毒舌漫画&エッセイのカレー沢薫の『ひとりで死にたい』
halfboileddoc.hatenablog.com

どちらも相当に面白く、特に『定額制夫の…』はSNSで相当話題になった。
『ひとりで死にたい』もカレー沢のシニカル&ナンセンスな作風が、割に真面目な社会派的な着眼点で、その掛け合わせがとても新鮮だった。

しかしこの二つ、巻を重ねるごとに話が割に進み出してゆき、もはや当初のアイデアの面白さからだいぶ離れてきている。
それはつまらなくなったかというと、全然逆で、深みがでてきたのだ。

結局のところ『こづかい』は、一言で言うと「制限のある人生で、どのように幸福や満足を最大化するか」という話。
つまりはライフスタイルの問題を描いている。最近紹介されるこづかいさん達は、少ないお金でどれだけ満足度を最大化するか、みたいなのが多くて、そこには悲壮感も貧乏ったらしさもなく、抑制と解放、緊張と緩和がみずみずしく描かれていて、むしろ心地いいくらいだ。

『ひとりで死にたい』も出発点こそ孤独死や老後の、ネガティブな話だったが、結局のところ、主人公である若者世代の普段の生活、そのお財布事情やライフスタイルの話に行きついており、「我が事」の悩みを等身大で悩む、非常にリアルなドラマとなっている。若干教条臭は『こづかい』より強いが、これは作者が、この問題に対して情報収集・取材で得た知識を開陳しているからだろうと思う。そこに嫌味ったらしさはなく、素直な驚きがある。

かなり遠い特殊な出発点から始まった二つの漫画が、気がつくと普遍的な事柄に帰着し交錯するのは面白い。
というわけで最近のこの二つの漫画は、読み味がかなり似た印象を受けてしまうのがおもしろい。

「普段の生活」の「お金」と「幸福度」の問題。

ただ、二つとも、漕ぎ出した船はどんな大陸に漂着するのか。
この両作者二人とも、起承転結がしっかりしたストーリーテリングの経験値がすくない。
ひとしきり強度の高いエピソードが終わったらぽいっと終わってしまいそうなのが、少し心配なところ。
中盤戦までいい感じに話が進んでいるので、ダレることなく、描き切ってほしいと思う。