半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『プーチンはアジアを目指す』

ミンスク合意・クリミア併合後に、かかれた本。
2014年前後のウクライナではヤヌコビッチ・ティモシェンコとか政権争いがあったが、そういう時の情勢を紹介した本。

プーチンの出自はKGBという側面ではなくて、古儀式派(=ロシア正教の中の一会派)であり、そこを忘れてはいけない。
プーチンはよくもわるくもロシアの多数派の最大公約数的な政策を実行している。

残念ながら、この本では
「クリミア併合後、ウクライナをめぐってロシアと欧米=西側の「新冷戦」が起こると危惧されているが、
そうはならないんじゃないか、と思う。」という考察だった。
現実は冷戦どころか、ホットな戦争が起こってしまった。

今からみると、外れた予言、ということになる。
が、外れたからといって、この本が全く無意味であるというわけではない。

・現在ロシアは東方に視線をむけている
アメリカは経済活動の低下したロシアの優先度を下げたが、エネルギーで密接な関わりのあるヨーロッパはそうもいかない。
・ロシアにはリベラル派、リアリスト、民族右派・大国主義者の政治的な3つクラスタがある。
・古儀式派は東方と深い関係性がある。祖父に古儀式派のルーツをもつプーチンが、ユーラシア主義のもとに東方・アジアに目を向けている
・1990年半ばから、東方への興味・関心が増した。西欧を向いた外交から、全方位的な外交にスイッチしている。
・シベリア・極東の開発が「21世紀全体を通じての国家的プロジェクト」と位置づけている。


現在戦場になっているウクライナ東部はもともと親露的であり、ロシア系住民も多い土地柄ではある。ウクライナの国体の重心はむしろ西側にある。
キーウに進行したロシア軍が「ブチャ大虐殺」みたいなことを起こしたのは、あの辺は、親露住民の少ない土地柄だったからなのかもしれない。

基本的には、論考の結末自体は、ウクライナの戦争によって価値を失ってしまったが、論考のプロセスそのものの価値を減じているわけではない。
天然酵母のパンのように、やや咀嚼しにくく、いろんな味わいが楽しめる本であると思う(フォロー)。

参考

TVでもおなじみ小泉悠さんのウクライナ戦争の本。
halfboileddoc.hatenablog.com
ウクライナの歴史を概観する本。
halfboileddoc.hatenablog.com
独ソ戦についてはこの辺りを参考に。
halfboileddoc.hatenablog.com
佐藤優氏の評価もウクライナ戦前後で少し意味が変わってしまったが、21世紀のロシアを理解するには欠かせない人物ではある。
halfboileddoc.hatenablog.com