半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

映画『Blue Giant』

bluegiant-movie.jp

漫画はずっと追いかけていた(今も)のBlue Giant
ついに映画化されたので、先週金曜日観に行った。

なぜか行こうと思った日のレイトショーは22:30の枠しかなかったので、疲れきった状態で見始める。*1

や、面白かった。
ジャズのプレーヤーサイドの、別にかっこよくもない(むしろ貧乏くさい)日常と、それを打ち負かす圧倒的な演奏シーン。
とにかく、石若駿・上原ひろみ・馬場智章の演奏がめちゃくちゃかっこよかった。

先に言っておくが、演奏協力した3人のミュージシャンは、別にそれぞれのベストというわけではない。
3人とも非常に引き出しの広いミュージシャンなのだけれども、その多彩な引き出しを敢えて封印し、Blue Giantの登場人物らしい「演技」で演奏をしている。
それがすごいなと思う。
そんなことできるん?いや、できているんだな。
とにかくその演奏そのものがないと成立しない映画だったと思う。

* * *

 もう少し細かくストーリーテリングのことをいうと。

主人公のサックス大はネジの外れた規格外の人間。
漫画では、その常識はずれの練習量、練習への没入が執拗に描写される。
(偏屈なわけでもない人間が、そういった狂気を秘めているところに作者の石塚氏の人物造形の妙があるし、そういう意味で大には一般の読者からは全く共感を阻む何かがある)
しかし2時間という尺でストーリーを進めるためには、そういう時間ばっかりかかるシーンを描くわけにはいかない。

映画では大の「ネジの外れたヤバいやつ」側面はそこまでクローズアップはされなかったのが残念といえば残念だとは思った。
ユキノリも、一見、4歳からピアノやってる「天才」みたいな感じの描写なのだけど、派手に生活しているようにみせかけて、実はバイトに精出して、家では電子ピアノでカタカタカタカタひたすら練習に明け暮れているという「秀才」である(だからこそ『殻を破れ』と言われてもなかなか破れない。かなり努力をしつくして今に至っているのだからいる)。
その描写も、そこまで描かれてはいなかった。
しかしまあ、漫画10巻分を2時間におさめる上で仕方がないことだと思う。

むしろ、登場人物のすごさを、映画のプロッティングやすごい描写で間接的に表現するのではなく、演奏に100%注力してきた潔さが素晴らしかった。

すべてを捨ててジャズシーンに殴り込もうとしている若者。仕事を普通にしていて、アマチュアで音楽やっているおじさんプレイヤーの自分としては、少なからず肩身の狭い気分の映画・漫画ではありますが。覚悟がたりないんだよな。

*1:終わったのは0:40…疲れた