オススメ度 100点
漫画らしさ度 120点
以前に近藤聡乃はどこかのウェブ書評か雑誌で取り上げられていて興味をもった。
しかしそこで紹介されていた『A子さんの恋人』はKindle化されていなかった。
仕方なしに『ニューヨークで考え中』は読んで(おもしろかった)、『A子さんの恋人』をリアル書籍で買うか、Kindleで買おうか、…と待っていたのだが、気がつくとKindleで出ていた。
そこで遅ればせながら買って読んだ。
これは恐ろしいものを読んでしまった…というのが正直な感想。
まず「漫画」がおそろしくうまい。
写実的な絵柄というのはしばしば目にするが、漫画ならではのふうわりとした筆運び、描線。
動きも内包された絵柄に、うならされる。
絵として、一番似ているのは、高野文子ではないかと思う。高野文子の漫画のうまさが、近藤聡乃にもある。
こういうのって、やっぱり美大とか行って、基本的な素描の能力を身につけた人こそが成し得るやつなのかなあと思ったりする。
簡単に描けそうで、ちょっとやそっとじゃこの描線はかけない。
そして、絵柄が高野文子的なもんだから、どちらかというと恬淡とした草木的な人物造形なのかなと思ったら、人物描写は非常に生々しく、そこのリアルさが、そして前提とされる作者の観察眼が、おそろしい。
舞台は、美大の友達の卒後の交友録と、主人公(漫画家で最近NYに居たが最近日本に戻ってきた)のまわりの恋愛模様。
女友達同士の心理の綾であるとか、元彼、元カノとの関係性であるとか、そういう部分、もうなんというか、自分の若気の至りなども含めて、ぶっささることぶっささること。
それから、創作に関する考え方とか、クリエイティブな仕事に対するアンビバレンツであるとか、そういうのも非常に共感できるところだった。
『凪のお暇』とかも、まあまあぶっささる系の漫画だったと思いますが、これも、もうなんというかぶっささったなあ。
* * *
こういうのを読んでいて、気づかされる。
ここで美大時代の描写などに、随分心動かされるのは、
多分僕は、音大とか美大とか、芸術系の大学に行きたかったんだろうなあということ。
病院の跡取りとして育ち。本好きで成績も良かったりしたし、そりゃ医者になることをやはり期待されてはいたので期待された行動を僕はとった。
しっかりエゴと向き合って、自分のやりたいことを選ぶ、という行為を、今に到るまでしてこなかった。
この年になっても、アマチュアミュージシャンみたいな自分のありように、みじめったらしくアイデンティティの多くを依存しているのも、結局は自分の選んだ職業選択に確信がないからだと思う。
もちろん今になって、僕は置かれた状況に対して、かなりうまくやってきた。
その自負はある。
それに今更大学生に戻って人生のやり直しはできない。
だが、こういう業界に身を置く世界線が、果たしてあったんだろうか、ということは死ぬ直前まで思い続けることなんだろうなと思う。