オススメ度 90点
人と人との繋がりが社会をつくる 度 100点
「人と人とのつながり」が、結局は財産よりも個人の能力よりもなによりも強いのだなあ、という話。
『55歳の地図』は「本宮ひろし」とかの世代の時流に外れ生活に煮詰まった漫画家の話。
することがなくなり、家財を処分しホームレスとなって、わずかな荷物を中古の三輪自転車に乗せ四国お遍路の旅にでる。
お遍路には、人生に煮詰まった人、死を覚悟する人も沢山くる。お遍路さんを助ける高齢者の方々も沢山おられ、ある種の制度化されないセーフティネットも構築されているようだ。なので、旅慣れない人もサポートがある。それに、同道する人も現れる。
なんだかんだあって、この期に及んでも過剰な自意識を何度かへし折られ、人の助けに、素直に感謝するという境地にいたる。
結局、四国お遍路を通じて、作者は、自分一人で生きているのではなく、多くの人に生かされているんだなあ…ということを痛感する。そう考えてみると、お遍路さんは、宗教的な境地を作り出す極めて実践的な宗教装置なんだなと思った。
「人と人との繋がりが大事」というのはありきたりな結論ではあるが、実践をもってこの結論に至るのはやはりなにがしかの咸興がある。
ちなみに作者は一旦この漫画を執筆し、後日譚も何作か書いたが、最終的に今は四国のある民宿で、庶務用務のおじさんとして余生を送っているみたいだ。まあ、老人版の" Catcher in the Rye"ではないかと思う。
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『孤独は消せる』は、Orihimeという会社を経営している吉藤さんという人の、自伝のようなもの。
お世辞にも文章はうまいとは言えないが、この人の体験と考えがとても面白いので、興味深く読める。
引きこもっていた子供時代。工業高校にいってかっこいい車椅子を作って脚光を浴びた話。
しかし一生これを作り続けるのはちょっと違うかなと思いなおし、自宅から出られない重病の人の「分身」を作る会社=Orihimeを立ち上げるまで。
自分専用の黒い白衣を仕立てたりエッジのたったGeekだった少年が、いろんな人生のエピソードを経て、会社設立に至るのが非常に面白い。
孤独感を持っていた少年時代の思い出。そして車椅子の研究を始め、仲間と一緒にやることを経験し、人と人とのつながりが大事なんだという結論に至るところは、感動的でさえある。
出自だけで語り草になる経営者という点では、この人と非常に似ているなあと思った。
halfboileddoc.hatenablog.com
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「人と人との繋がり」が生み出すのは、結局のところ、ストーリーであり、ナラティブである。
もちろん、衣食住の充足、自分の居場所の確立というものが人生においては先決だとは思うが、それ以上のものはナラティブにあるといっていいだろう。
四国ってもう何百年以上もこうしたお遍路さんというナラティブ装置を涵養しているわけで、それってすごいポテンシャルなんだと思う。