半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『平成史ー昨日の世界のすべて』與那覇潤

なんと、重苦しい本だろう。

平成は、1970年に始まっていた――!? 団塊からZ世代まで必読の日本の全貌!
小泉純一郎から安室奈美恵まで――平成育ちによるはじめての決定版平成史が誕生した。気鋭の歴史学者として『中国化する日本』で脚光を浴び、その後、双極性障害による重度のうつの経験をもとにした『知性は死なない』で話題を集めた著者が、「歴史学者としての著す最後の書物」と語る、渾身の一作。昭和天皇崩御から二つの大震災を経て、どんどん先行きが不透明になっていったこの国の三十年間を、政治、経済、思想、文化などあらゆる角度から振り返る。新型コロナウイルスによる政治・社会の機能不全の原因も、「昨日の世界」を知ることで見えてくる。

同世代の書き手による、平成を丁寧に振り返った本。
さまざまな思想潮流を丁寧にフォローし、その当時の時代背景についても丁寧な検証を行なっている、膨大な記録ではあるけれども、とにかく、当時のことを知っている自分にとっても、納得のいく一冊だった。


ただ、こういう平成の時代の流れを丁寧に振り返ることが、「いま」につながっていないという現実がある。
ある種「死んだ子の歳を数える」ような読後感なんですよね。
これだけ丁寧に検証されたこの本が、まあ、はっきりいって無意味に思われる断絶を経て、今僕らは新しい時代を生きなきゃいけない。

同年代の人は、この日本の政治・思想界を振り返る意味で、読んでみられるといいと思う。
そういう意味で、この重厚で重苦しい本を読んで、そして現在を振り返って、丁寧にたどった足跡の無意味さに、愕然とする、という疑似体験を、ぜひおすすめしたい。

今となっては断絶した思想潮流も、政治潮流も、その当時の重要性を汲み取って、丁寧に拾い上げている。
まさしく、「平成の墓標」のような本である。
とても自分の中でも一読してまとめ切れる分量でもなく、何度も読み返す必要があるような気がする。
ただ、自分のリソースを、過去の振り返りに使うのか、新たな時代を見渡すことに使うべきか。

我々が打ち捨ててきたもの。
今の時代に我々が打ち捨てようとしているものは、本当に打ち捨てて良いものなのかどうか。
そんなことを考えさせられる本だ。

以下備忘録(書きかけ)

ゴー宣、浅田彰構造主義山本七平リクルート事件自由社会連合結党宣言……

・まるで霧の中に迷い込んだかのように、全体像を見渡しにくい時代。しかし奇妙なのは、空が晴れていること。
反知性主義のもとで嘲笑される存在へと転落していったのか
・1989年の一年間を通じて、日本人が思考する上での参照軸、「左右」の芯棒がともに折れた
・高度成長期と平成の不況期をつなぐ「低成長期」とも呼ばれる昭和の最末期は、高学歴かの定着を背景に「教養層」と
「大衆層」の幅広い一致が生じた点でも安定した時代
・日本が積極的なビジョンを世界に掲げたのは、むしろ戦前のアジア主義などの特徴で、戦後は総じてみな内向きに
・遺憾ながら「専門化と学際化の同時進行」という平成の大学行政のあり方が、学問的な知性への信頼を蝕んでいった側面は否めない
・平成5年こと1993年が、日本政治の分水嶺だったことを否定する人はいないでしょう