半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『読書の技法』佐藤優

オススメ度 90点
甘えと妥協がないクールさ 100点

読書の技法

読書の技法

読書に関する本、思い起こせば随分読んできた。
単純に読書の効用を解く本なんて、すでに書痴といっていい僕には大して意味もないのに。
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この辺りは、ナイーブな読書礼賛本。他にも多分10冊くらいKindleにあるけど、ポジショントークのようなものなので、あえて紹介はしない。

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乱読して、全然別の分野の本を合わせるとイイヨ!的なやつ。
きゅうりとハチミツ一緒に口の中にいれるとメロンになるよ!みたいなもん。
知のメロンをゲットできればいい。なんだそりゃ。
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この方は、もともと全然本を読まないのに作家になったという人。
これは単純な読書礼賛に対するアンチテーゼの意味あいが強い。おもしろい。
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一読者としてのアツい思いもあるけど、辣腕編集者として、本を送り出す側の思いと半分は自伝。

* * *

この本に話を戻しますね。
佐藤氏はおなじみの外務省ノンキャリアから対ソ戦略のスペシャリスト。国家方針の転換の巻き添えを食って刑務所に入り、そこから著作家になった人。もともと読書家でもあるのだが、諜報の一環として多量の資料を読み込む必要があることから、多読家にもなった。

単純に「読書イイヨ!」という本ではなく、本を読む人たちにむけて、もう少し本の読み方を指南する本。上級者から中級者にむけての本だ。

  • 今佐藤氏は一ヶ月に300冊くらい目を通している。が、熟読できる本は月3〜4冊くらい。これをあと2冊増やすのは簡単ではない。
  • 速読では、知っている事項を読み飛ばして、新たな情報を拾い集める。それなら5-20%の部分しか読む必要はない。
  • 知らない分野の本は超速読も速読もできない、というのは速読法の大原則だ。
  • 「簡単に読める本」「そこそこ時間がかかる本」「ものすごく時間がかかる本」の3種類がある。
  • 新しい分野の基本書は3冊・5冊と奇数本買うのがよい(見解が別れる場合、多数決にするから)
  • 本は真ん中辺に弱点(翻訳が荒れたり、論理構成が雑になったり、作者・翻訳者がスタミナ切れする部分)がある。そこを読むと本の水準を知ることができる。
  • 知識は頭で覚えるものだが、体に覚えこませないと意味がない分野の勉強がある(テクネー)。例えば高等数学や語学のようなもの。こういう知識は本を読んだだけでは体得できない。計画に十分時間的余裕をもたせないといけないし、自分で鉛筆を動かして作業をしないと身につかない。

と、まあ「ただ本を読んでいればOK」というレベルから一段上の、どのように、本を選び、読み、さらに学習を深めていくかについて、かなり実践的なことがかかれている。いわゆる「本好き」から「本を使って学習する人間」へのステップになっている。

私も、現在は社会人の本読みにすぎない。いろいろなところから情報を仕入れて取捨選択しているけれども、知的なバックボーンは、学生時代に読んだ基礎的な哲学やそういう本など。要するにOSは若い頃のままで、HDに新たなファイルをいれているだけだ。
この本は、そういうOS作りに役立つ本だと思う。こういう作業はしんどいので時間のある学生のうちにすませておきたいものだね。

今僕は、一日に一冊本を紹介する、というのをやっているけど「簡単に読める本」に偏りがちであるなあと思った。実際、そこそこ時間がかかる本で、感動した本というのは、さらりと紹介するようなものではないのだ。「サピエンス全史」とか「ホモデウス」なんて、去年の9月からこのBlogの下書きにいれているけど、感動が大きい分だけ、紹介できないものだ。
来年以降は、この「一冊紹介」のモードも変えていく必要があるかもしれない。

出世するうえで重要なのは、自分の生活習慣から他人に嫌われるような要因を少しでも除去することである。そのためには自分がやられて嫌なことを他者に大してしないということが基本だ

だから、図書館で借りた本に書き込みをしたり、電車で場所をとって作業するとか、そういう迷惑なことはやめときんさいよ、と。
こういう、みたいな金言がひょっとでてくるから侮れない。
随所にキラリキラリと光るところが多い、いい本だと思う。