老境に差し掛かったら、どういう本がいいんかな。
癌をして、先が見えない不安を抱えた状態。
そういう心境での読書は、若い時分の読書とはまた違った切迫感と味わいがあるよね、
と老境の筆者がいろいろ読んでみたよ、という本。
キケロ、セネカ『人生の短さについて』は定番の本であるが、それ以外にも明治文学のいわゆる「文豪」、それから著者が編集者の際に出会った昭和の文人の最期とそのテキストなど色々な作家の老境の作品もしくは老境が垣間見える作品を紹介。
もちろん『方丈記』鴨長明や『徒然草』兼好法師なども。
色々老境ならではの心への響き方がある。
そんな中、クスリと笑えるような話もあったりなかったり。
ターレスの
彼にはさまざまな逸話が残されているが、その一つに母親が彼に無理矢理妻を娶らせようとしたとき「まだその時ではない」と答え、その後盛りを過ぎてから迫ると、「もうその時ではない」と答えた
これなー。昔の僕はターレスの立場で考えて「うまいこといいやがったな」とか思うけど、
むしろお母さんの立場で思うと、もー、ねー。と思う。
* * *
この本は、老境・死という出来事でフィルタリングされた「カラーバス効果」の本であると言える。
「カラーバス」効果。
興味を持って眺めると、世界が随分と別の風景に見えてくる面白さ。
若い頃『死』は多くあるトピックの一つに過ぎず、しかも先送りできる事柄だった。
しかし大病を患わったり死を実感すると、世界が『死』に関するもの中心で見え始める。
その状態で読書をすると…
僕ももし病気をしたときには世界の見え方が変わるだろう。この本はそういうガイドになりうるんじゃないかと思う。
それにしても、文筆とは因業なものである。
前回の山本文緒はサバイブできない人だった。
癌をサバイブしても人はものを書くし、サバイブできなくても、人はものを書く。
多分僕も、きっと死ぬときには何か書いていることだろう。
参考
死や老に関するエントリ。
halfboileddoc.hatenablog.com
これと、山田風太郎の「人間臨終図鑑」が、いろんな人の死に様を描いているやつ。
halfboileddoc.hatenablog.com
これは、さらに対象を広げて、いろんな動物の最後。
halfboileddoc.hatenablog.com
これは、死ではなく、死の前段階である「老」。個性豊かな独居老人スタイルを描く。
死について描いた三作。第一人称で、モリー先生は第二人称で死を描く。
halfboileddoc.hatenablog.com
halfboileddoc.hatenablog.com
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作品世界において、死や不死を描いた2つ。
halfboileddoc.hatenablog.com
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