マンガ大賞2021大賞。手塚治虫文化賞新生賞受賞と鳴り物入り。
Twitterとか見ていて、抜粋が広告で出ていたので、読んでみた。2020年からの連載で現在4巻まで刊行のハイペース。
勇者一行が、魔王を倒し、世界に平和が訪れた。
そのあとの後日譚。
エルフの魔法使いフリーレンは解散した勇者パーティーから、「世界中の魔法を探す」という自分のミッションに戻り一人旅を続ける。
淡々と単独行を続けるフリーレンだが、50年に一度降るという「半世紀エーラ流星」を見た4人は次回もそれを見る約束をしていたのを思い出し、すっかり年老いた勇者ヒンメルと再会するフリーレン。
その後勇者は死に、彼の葬儀でフリーレンは予想外の悲しみに当惑する。
……という話。
不死のものと定命のものとの考え方の違い、それによって起こる気持ちの揺れ動きなどを丁寧に描く。
いわゆるファンタジーものとしては変化球もいいところで、大きなイベントも起こらず、淡々と物語は進む。
あくまで、物語が終わったところから話が始まるので、ベタな起承転結感を感じさせない。
きわめて「第二楽章」的な物語のテンポである。
誰も倒すことができず、封印するしかなかった敵側の魔術師が、封印が解けた80年後、外界の魔術研究が進み、強力な魔術がすでに標準的なものに堕していた、という話であるとか、探している魔術書の作者とフリーレンとの関係であるとか、この舞台にして、丁寧なプロッティングで、世界を奥深く描写するさまに感心する。
不死ならではの悩みっていうのは結構面白い着眼点だよな、と思った。
しかしこれって、一見特殊な状況と描きつつ、実は普遍的な感情であったりするのだ。
例えば、犬や猫を飼っていると、15-20年で、凝縮された一生を送り、自分よりも先に死んでゆく。
不死のエルフが人間をみる視点は、我々が家族のように接する飼い犬や猫を見る視点に極めて近い。
『アルジャーノンに花束を』もそういう、特殊な話と見せかけた普遍的な話だった。
あれも、天才的な頭脳を持った主人公が、人よりも早く老いてゆくという悲劇であるが、多くの人間は中年以降、昨日より今日、今日より明日と衰えてゆくわけであり、衰える恐怖という物自体は普遍的なものなのである。だからこそ、多くの人の共感を呼ぶ。
不死の悩みでいうと、手塚治虫も同様のモチーフでの作品がいくつかある。代表作は当然『火の鳥』であろう。
他には、高橋留美子『人魚の森』もそうだよね。『ダンジョン飯』最新刊も同じ悩みが主人公達の行動原理になっていたりもした。僕は「世界の終わり」ものがとても好きなのであるが、
halfboileddoc.hatenablog.com
『銀河の死なない子供たちへ』 - 半熟三昧(本とか音楽とか)
のあたりも不死の哀感があるかなあと思う。
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