半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『教養(インテリ)悪口本』

これはちょっとはなはだしすぎるかな。

インテリ向けに、一捻り・二捻りどころかも加えた悪口の言い方を指南した本。
「なんと性格の悪い…」とも思うが、似たようなこと自分もしているよな、とは思う。

たとえば表紙にある「植物だったらゲノム解析されてそう」というやつ。
シークエンサーの技術が発達したときに、DNA配列を調べるゲノム解析プロジェクトというのがいろいろな動植物の種でなされたが、商品作物ではない植物=つまりあまり役に立たない品種が、まずは選ばれる。
というわけで「植物だったらゲノム解析されてそう」というのは、シンプルにいうと「使えねえやつ」ということになる。
もってまわった言い方。悪口説明するのに、ピタゴラスイッチみたいに3、4段階説明せんといかん。

まあこんな感じで、読者を置き去りにする。
僕はどちらかというと知識はある方なのだが、それでも、まずそのゴールである悪口一言で、すべてを察するものは2割もなかった。
ちょっと難易度設定が適切ではなさすぎる。
プライベートで使うなら、だいぶレベル落とさないと無理だよ。

逆に、たとえ話が難解すぎて逆に伝わりづらい時に「教養悪口本じゃないんだから…」といってみようかな。

* * *

まあ、高校生・大学生って、知識の広さやエッジの効いた感じを追求するもの。
でも、劇場のお笑いがTVに出る時にエッジを削って丸く、広くお茶の間にお届けするように、社会人になるといかに「わかりやすく」「伝わりやすく」ということに心を砕く。そういうベクトルの真逆である本作は、なんといいますか、若さを感じて懐かしくさえあった。

ただ、教養主義は80年代に絶滅して久しい。
そしてすべての分野における知識量は累乗化して増えている。
まあこのスタイルそのものが現代向きではないのではないか、という気もした。

逆に狭いコミュニティの中でシェアされた知識を使って悪口を言うという場合は、こういうスタイルも有効かもしれない。

この辺りはハイコンテクスト・ローコンテクストという言葉で説明できそうだ。
この本ではハイコンテクスト文化の極北としての教養が前提条件とされている。
ただ、一般の社会ではとにかくローコンテクスト、前提の知識なしに楽しめるものが受け入れられ、読み手を選ぶものは受け入れられない。

働き方改革」とかで会社の脱ゲマインシャフト化もすすむ。コミュニティもなくなり、よりハイコンテクストな場は消失している。
いやはやなんとも。

参考:

halfboileddoc.hatenablog.com
自分のサイトを「悪口」で検索していたら、これが出てきた。斎藤美奈子女史は、切れ味が良すぎる批評にいつもうなる。
これくらい見事に斬り捨ててくれたら、傷口から痛みを感じることさえもないかもしれない。
halfboileddoc.hatenablog.com
僕の書棚の「珍説愚説事典」の横に「世界毒舌大事典」というのがあるが、これは古今東西の悪口を集めたもの。
これ、本棚的にインパクト大なので、書棚のポートフォリオを一翻(イーファン)上げたければ是非。

halfboileddoc.hatenablog.com