映画『八甲田山』。昔は時々はテレビでも放送されていたが、最近は観ることはなくなった。
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私は『八甲田山』が好きだ。
バカバカしいからだ。
岸田秀や司馬遼太郎、山本七平らが繰り返し指摘してきた大日本帝国陸軍の愚かしさが、集約されているからだ。そしてそれは残念ながら戦後の会社組織での風景と地続きでもある。
しかし、この映画『八甲田山』はそういう日本人の意思決定の愚かしさの教訓として取り上げるには、いささか長過ぎる。他の人に勧めにくい。というか、はっきりいうと映画としては退屈すぎるのだ。
3時間の長尺で、プロットもテンポもよくない。
退屈なシーンは『寝るな!寝ると死んでしまうぞ!』という歩卒の酷薄さを追体験させたいかのようである。
* * *
マーケット・プロダクト的には『八甲田山』はプロダクト・アウトの典型であると思う。
プロダクトアウトとは、商品開発や生産、販売活動を行う上で、買い手(顧客)のニーズよりも企業側の理論を優先させることである。 「作り手がいいと思うものを作る」「作ったものを売る」という考え方。 マーケットインの対義語である。
八甲田山、当時の豪華俳優陣のオールキャストで数年かけて雪山で撮影を敢行。
めっちゃくちゃ大変だったらしい。今だったらCGでなんとかするものも、完全にリアルで撮影している。
(史実以上に、脱走兵続出だったらしい笑)
おそらく、そういう撮影で大変だったシーンをバッサバサカットできないせいで、冗長になった。
作り手の思いと実際の大変さが、名作になれなかった原因だと思う。*1
意思決定の愚かさ(具体的にいうと青森隊の大隊長と神田大尉の間での意思決定の朝令暮改)にフォーカスを絞ると1時間半くらいにまとめることは可能でしょう。誰か再編集してくれたらいいのにと思う。ま、その「マーケット・イン」は存在しないけどね。
そういう意味でいうと、映画『八甲田山』というのは「意思決定の愚かさ」という悲劇を描こうとして作った作品づくりが意思決定の不徹底で失敗している、という極めて皮肉な作品なのである。
そういうメタ視点での間抜けさこそが、僕がこの映画を大好きな理由なのかもしれない。
やー、こじらせてますね笑。
どれくらい好きかというと、わざわざ映画『八甲田山』のテーマを吹くくらいです。
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しかしこれも、今のお若い方々に刺さるものでもないし。
ちょっと昔にカフェでBGM演奏をしていた時にみんなが知っている名画の名曲(Moon Riverとか、追憶とか)をレパートリーに入れたことがあったんですけど、八甲田山…は周りに訊いても反応薄かったなー。
本来はアメリカで『タワーリング・インフェルノ』『ポセイドン・アドヴェンチャー』が大ヒットしたことをうけて、和製ディザスター・ムービーを作ろうという流れで、八甲田山だったんだけどね…
*1:こういうの、研究とかでもありますよね。めちゃくちゃ苦労したけど大したデータにならなかった部分を、完全に削除するには勇気がいる。