実は2年前くらいから「引き継ぎ」に並々ならぬ関心がある。
昔神戸大学の精神科の教授、中井久夫先生が「引き継ぎ学」みたいなものが必要なんじゃないか、ということをエッセイでポロッと書いていた。
実際、複数の医療機関を赴任→退任、着任→を繰り返した身としては、医師のカルテの記載は、めちゃくちゃ属人的で、引き継ぎしやすいカルテもあるし、引き継ぎしにくいカルテもある。*1
やっていることの言語化、客観視ができている医師は読みやすいカルテを書くし、そういう場合引き継ぎは容易。そうでない場合はゴニョゴニョ…*2
『働き方改革』によって医師の仕事も主治医制からチーム制にかわる必要がある。ネックとなるのは、やはり医師のカルテ記載。属人的な仕事ぶりがカルテ記載にもっともよく表れている。*3
診療の継続性ができうるカルテ記載とはなにか、ということをつらつらと考えているのだが、世の中には中井先生のおっしゃった「引き継ぎ学」というものは、まだないのである。「失敗学」とか、そういうもののような「引き継ぎ学」というものを探している。
そんな中でこの本。
会社における「引き継ぎ」を描いたものである。
結論としては、直接役にはたたなかった。
しかし、通常の会社組織においても、営業など属人的な要素が強い部分では、いまだにチーム体制にはなっていない会社も多いし、医療分野よりも段違いに優れた意思伝達ツールがあるわけでもないこともよくわかった。
結局、自分で作らないとだめなのか…
本にもどろう。
営業のエース社員がやめることになって、業務の引き継ぎに難渋していた会社。
この際だから、属人的な形態をやめて、チーム体制に移行できないか?という経緯がナラティブな形で語られる体裁をとっている。
要するに、有為な人材が抜けるというのはピンチではあるが、同時にチャンスでもある、ということ。
その形づくりを行うことこそが組織の本質であるということ。という話だった。
以下、備忘録:
- 日常的な仕事の引き継ぎ、後任に託す引き継ぎ。
- 引き継ぎで何らかのトラブルを経験した人は86%にのぼる
- 「目的」「時間軸」「矢印」
- 守りの引き継ぎ、なのか、攻めの引き継ぎなのか。
- 引き継ぎの本質は「変化」。1:考え方の変化。2:仕事の変化、3:組織の変化
- 最初に取り組むのは「変えてはいけないものの確認」。「約束」は人と人との間でかわされるものだから。約束だけは個人の自由にならない共有財産。
- 仕事は引き継ぎを通じて成長する。
- 「注意」は有限。配分が大事。未来60%、現在30%、過去が10%くらいのバランス。
- 説得のテクニック(モヤカチ、カチモヤ)
なんか系統的な、読んだだけで頭がよくなったような気にさせられる本ではないが、実践的な経験がきちんと普遍的なものに昇華されている。面白い。ただし、自分たちの領域に敷衍するには、自分できちんと考える必要がありそう。
しかし、引き継ぎについて、ピンチではなくて、チャンスととらえるべき、というメッセージは結構刺さったなあ。その意味で大きな意味があるなあと思った。
うちの組織で引き継ぎがうまくいった事例といかなかった事例を考えると、うなづける様な気がする。
「引き継ぎ」について、もう少し見聞を深める必要がありそうだ。
「業務の標準化」という観点で本を探した方がいいのかもしれない。