オススメ度 100点
- 作者:西股 総生
- 発売日: 2017/06/17
- メディア: 文庫
まずは一般性のある『戦国の軍隊』を読んでみた。
きっかけはなんだったっけ?
Kindle日がわりセールだったのか、オススメコーナーに表示されていたのか。
『戦国の軍隊』は本来は城郭研究の専門家の西股先生があえてこれだけは言わせてもらうわ、って感じで書いた本。
いわゆる戦国時代の一般的な認識「織田・豊臣軍=近代的な兵制をとり、鉄砲を早期に配備し集中運用して全国制覇した」というやつ、全然根拠ないですからね。ということ。
もう一つ、城郭についての『「城取り」の軍事学』は、先生の専門が炸裂していてさらに面白いのだけれども、とりあえずはまずは、いわゆる「歴女」とか言われている人とか、司馬遼太郎の歴史物なんか読んでなんとなく戦国時代のこと知った気になっている人とか(私もですけど)にはオススメ。きっと「ほー、そうなんか」と目からウロコなこと請け合い。
西股先生は、城郭研究家ではあるけれども、軍事学にも詳しい。
ただ経歴を見ても、そこはよくわからない。学習院大学なんですけれども。
いわゆる辺縁知識の教養が随分あるような人なんだと思う。
専門以外のことを語らせても、面白そう、酒席に立ち合ったらきっと話が尽きないタイプの人なんじゃないだろうか。知らんけど。
ちなみにですけれども、医学の治療学ってやつは、かなり軍事・戦争に重なるところが大きい。
アナロジーとしても使える部分が多いと思っている。
「レジデント初期研修資料」で有名なmedtoolz先生も、よく軍事になぞらえた記事を書いていた。
医者は、教養として軍事学、軍事用語を知っておいた方がいいと、僕は思っています。
まあ学術関係の文章では、そういうコロキアルなことは今では書かなくなってしまったわけですけれども。
以下備忘録。
- 戦後軍事学というものがなくなったので、戦国時代の研究は、歴史学の範疇でのみ語られるけど、本来は軍事研究の枠内で理解した方がいいのではないか。戦争不在の戦国史研究になっていないか。
- 近代的な軍事学用語(例えば「火力」「制圧」などの概念)を用いた方が、戦国時代の理解が深まるはずだ。
- 「鉄砲の組織運用」が織田・豊臣軍のお家芸であることになっているが、本当だろうか?
- 織田軍の近代的な軍隊組織対、諸国の「農兵」軍という対比は本当か?(後北条軍も、在地性の高い封建制でもなかった)
- 武士の性格、起源から類推されるモラルや行動規範など
- 足軽=非武士身分にて構成される非正規部隊。しかしある時点で本来傭兵だった足軽は封建的な軍隊の一角にうまくはめこまれた。
- 室町時代の軍隊は馬上打ち物戦を主戦法とする、決戦指向の強い軍隊。戦国時代は、足軽の非正規戦が次第に目立つようになる。
- 武器の変遷(兵士のアウトレンジ志向と、対弓矢用に作られた日本の伝統的な鎧にとって長槍は非常に有効だった)
- 矢合わせは近代戦における「攻撃準備射撃」と同じく、敵の動きを制止する役割もある。
- 長槍と鉄砲は練度の低い兵隊でもそれなりに威力を発揮できる
- 「侍衆」は高い損耗率ではあったものの名声の多い兵種で、戦場の「缶切り役」として戦線の破壊の主役を担っていた。攻城戦においても積極的に侵攻した。
- 補給と兵站については「兵糧自弁(自前で)」が原則であるが、これが完璧にできた軍隊は1940年にしか現れなかった(マーチン・ファン・クレフェルト『補給戦』)
- 織田軍団の強さは、鉄砲隊・農兵から職業軍隊への変遷にあるのではなく、入京を果たした後の多方面作戦を凌ぎきった過程で、それぞれの武将が経験を積んだことから得られた。ただし、身分にこだわらない下克上な武将を多数生み出してしまったことが、本能寺の変そのものの一因になっていたと思う。