オススメ度 100点
- 作者:西股 総生
- 発売日: 2013/05/01
- メディア: 単行本
前回西股氏の「戦国の軍隊」を紹介した。
halfboileddoc.hatenablog.com
なんとなく現代日本人が思っている戦国時代の常識は、ちょっと違うんちゃう?みたいな話でした。
けっこう面白かったので、先生の本分である城郭の話も面白いに違いないと思ったら、やっぱり面白かった。
- 江戸時代の「一つの藩に一つの城」みたいな感覚から考えると、戦国時代の城は数が多すぎる。これは戦国時代の城は大名の拠点という意味だけではなくて、軍事拠点のようなもので、地域制圧のための軍事施設以上でも以下でもないものが多数ある。(統一政権となった大名家の領内では作戦〜戦術レベルの城は不要となり、戦略拠点として最低限必要な城だけが残されるから)
- 「最上の城」というものはない。地形や用途、攻め手の人数や攻めてくる方向、守り手の人数などによっても最適解はことなる。城の「縄張り」をみてみると、城の用途や想定した戦いが透けて見える。強烈な個性をもった城は、その個性ゆえに融通が効かないから、使い捨てにせざるをえない。
- 川中島や桶狭間の戦いは、築城と野戦を組み合わせた立体的な作戦と複雑な戦場をよく表している。このような戦場では軍事的な急所(チョークポイント)を陥れ、相手方の作戦の自由度を奪いながら自軍における優位を確保してゆく戦い方が主流なのだから、主力どうしの決戦は起きにくい。戦国期の後半には「後詰決戦」といわれるタイプの戦いが主流となった。
あとは戦術的な考察も面白い。
・兵力の編成が細分化されるにしたがって、守り方も変化し、そのために城の縄張りも変化した。
・内枡形虎口は攻め手の「浸透戦術」(第一次世界大戦後半にドイツ軍が編み出したもの)に対抗するためだったのではないか。
・側面陣地として使われたと思われるような山城がある
・お城の内部の迷路化した狭い城域は、おそらく、夜襲対策
・敵に不本意な兵力運用を強要するところにこそ、城の存在価値がある。仮に守りきれないにしても、時間稼ぎをすることで戦況はいくらでも変えられる
そういう意味でみてみると、戦国時代に作られた膨大な城は、当時の戦争の様相(もう少し言えば、軍略家の考え)を如実に物語っている記録とも言える。おもしろいわけだ。
しかし自分の研究分野を他の人にも面白く伝えるというのは、けっこう難しいことだが、私はしっかり魅了されてしまったので、前回の「戦国の軍隊」に続いて、西股先生にはやられちゃったなあ。