半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『モンスター組織』

オススメ度 90点
すぐに身に付く知識ではないな…度 100点

モンスター組織 ~停滞・混沌・沈没…8つの復活ストーリー~

モンスター組織 ~停滞・混沌・沈没…8つの復活ストーリー~

組織コンサルタントの人の経験を、8つのケースレポートに集約し、対応と概観を紹介したもの。
ケースは、多分よくあるトラブルをストーリー仕立てに再構成したフィクションだが、まあまあ会社勤めが長い人ならあるある話で、めっちゃ共感。

実話を再構成したフィクションなので、同様の対策を同じようにしたからといって成功するわけではないが、トラブルの本質にある構成員の心情を解き明かしていたり、組織トラブルに対して掘り下げてゆくアプローチは、「ふむふむ」と思って読めること間違いない。

序章での示された3つのポイントは、普遍的な原理であろう。
・「犯人探しは不毛である」こと。矢印を特定の人、グループ(部署)に向けたがるが、そのような実情を踏まえた上で、結論は「誰も悪くない」。組織変革の大前提は「誰も悪くない」であり、組織課題に戦犯はいない。
・組織課題の原因は、人や集団ではなく、その組織メカニズムによる認知のひずみである。見方を変えると、被害者だと思っていた人が実は加害者だったり加害者と思われた人が実は被害者だったりする。
・制度(ハード)で会社は変わらない。組織のメカニズムは制度だけでなく組織心理(ソフト)に目指したものである。
・組織変革に万能薬はない

ではどうするかというと……続きは本をどうぞ!笑

一読して感じたのは、この組織コンサルタントの部分には、人間と組織に対する洞察と経験が要求されるが、それはなかなか言語化、というかラベリングされるものでもないようだ、ということだ。
医者の治療学でいうと、疾患に対する処方箋は比較的再現性があり、習得しやすい。一方診療技法には、暗黙知の部分が多かったりなかなか習得が難しい(もちろん何らかの方法論はあるが、それを取り込むだけでできるわけではなく、できない人には、できている人の評価とフィードバックが必要なんじゃないかと思う)

8つのケースレポートは、確かによくある組織の沈滞を書き出していると思われる。
物語仕立てなので、対策と結果、という面は多少出来レースっぽい印象もあるが、組織あるあるの頻度の高いトラブルに対して丁寧に解き明かしているので、生のノウハウの一端を垣間見ることができる。

以下、備忘録:
・対立構造を整理する
・経営者と現場責任者の「時間軸のずれ」がないだろうか?
・採用戦略の欠如。経営の理念をきちんと人材採用の時にも共有できているかどうか。経営幹部陣のライフウェイクが共有できているか
・「想いは手法の上流にあり」
・それぞれの幹部人材の得意・不得意を見極めることが大事。不得意な面から逃げていることが、組織の業務に大きなブレーキをかけていることもありうる。
・責任があいまいな状態での業務連携は、お互いが甘えあう関係性になりやすい
・「社員に『意識を変えろ』といっても変わらないなら、まずは働く環境を変えてみたら」
・業務フローに「人を育てる」という行動が組み込まれていないところでは、人は育たない
・数字と結びつけることで具体的な議論になる(ふわっとしたコンセプトだけでは通じない)組織もある。組織の思考パターンとずれたことを言っても響かない
・中長期で強い組織を作っていくためには、量的アプローチ(数量目標)を揃えた上で「どのような組織を目指すか」というコンセプトの確立と、そこからブレイクダウンしたソフト麺でのアプローチ(モチベーション施策や理念浸透など)も必要となる
トップダウン型で成長した企業において、事業をリードしてほしい社長と、社長に振り回され権限も何もないと感じている事業部長、という対立は必ずと言っていいほど起こりやすい。この場合外部人材の受け入れも功を奏さない。
・将来への危機感が組織末端まで伝わらず、新しいことが受けいられれない場合=パイロットチームによる成功事例を創出し、それを全社に展開すると受けいれられやすい。
・新旧の事業部門間の対立・不統一、不和→人事交流と、事業部単位での未来像ではなく会社全体としての未来像を共有することが大事
・人材交流が止まるとセクショナリズムが起きやすい
・機能体組織(ゲゼルシャフト)か、共同体組織(ゲマインシャフト)、自社の組織の性格の要素を分解して考える必要があるかもしれない。(兌換性が低い業務能力が必要とされなおかつ流動性が低い職場はゲマインシャフトの性格が強くなり、それゆえにゲゼルシャフト的なアプローチを拒む場合がある、ということだろうか…)

抜き書きしても、ヒヨコをミキサーにかけた臓物を取り出しているようなもので、多分ピンとこない。この備忘録はあくまで僕のためのものだ。
ナラティブなストーリーを読むと、ピンとくると思うので、このメモから興味をもてば是非一読されてみたらいかがだろうか。
フリーランス的な生き方も増えているとはいえ、多くの人間は会社組織で働いている。「組織あるある」そしてマネジメント層に響きやすい本ではあった。