半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

北海道漫画『スナックバス江』『波よ聞いてくれ』

はてなアノニマスダイアリーで誰かが言及していたので、興味をもったので読んでみた。
面白かった。
『THE3名様』『チェリーナイツ』『魁クロマティ高校』『ピューと吹くジャガー』のように男性誌の後ろの方にあるギャグ漫画、ということになるのだろう。単行本の部数の割に、知ってる人は意外にいる、みたいな漫画ね。
料理でいえば、『お通し』みたいな存在。
連載誌ではなく、こういうのを単行本でまとめて読むと、案外めっちゃ面白い時もあるし、ちょっと……という感想になることもある。
この本は前者。

すすきのから5駅離れたところにある寂れたスナック『バス江』(=場末ってことね)の人間模様。

なんといいますか、なんともいえない読み味。

酒呑みどころで交わされるたわいなく偏差値の低い会話の数々。
その割に意外に緻密なプロッティング。とせりふまわし。
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うんこのショーシャンクて。
往年の『特攻の拓』「不運(ハードラック)と踊(ダンス)っちまった」みたいに、ルビにキレがあります。

画風は、なんですかね?
ビックリマンシール(女性キャラ)と漫☆画太郎先生を足しで2で割ったような感じですかね。主人公ちーママ明美だけ描線にブレがないけど、あとはもやもやした筆捌き。
チーママ明美のアンニュイさとストレートなツッコミ。
常連客の愛すべき癖の強さ、モテない童貞森田の破壊力。
キャラが立ってるなあ……

地味に各話ごとに洋楽の曲名がタイトルに冠せられているのもいいですね。

もう一つ。北海道漫画。
波よ聞いてくれ』はスープカレー店員の鼓田(こだ)ミナレが、ひょんなことからローカルラジオ局のパーソナリティに抜擢され、型破りなMCでカルトな人気を博すところから、物語が回り始める。
こちらは、画力・コマ割りはじめ、漫画的な技量超一級の沙村広明
料理で言えばメインディッシュになりうる、主役級の作品である。

その漫画的描写は圧倒的で、ストーリーがいい感じに転がっている。
まるで登場人物が行きあたりばったりに好き勝手に喋り・行動するようなリアリティを感じさせる反面、田舎のカルト宗教集団に拉致されたり、北海道地震が起こったり、漫画的なプロッティングもうまい。もうとにかくうますぎる。
脇を固める登場人物の人物描写も、非常にリアルでもあり、魅力的でもあり。
とくに、本作では「素人パーソナリティ」という、型破りだけど言語能力があり、キレのあるMCという、非常に難しい役どころを、とても高い完成度とセリフで描ききっている。「おい沙村は絵がうまいだけじゃないのかよ」と瞠目すること間違いなし。
読んだことがない人は一見すべし、だと思う。

数年前から「いつか書こう」フォルダに入れていた『波よ聞いてくれ』が、まさか『スナックバス江』のついで、みたいな感じに紹介してしてしまうとは…や、すんません。

* * *

しかし『波よ聞いてくれ』の鼓田(こだ)ミナレといい、この『スナックバス江』の明美といい、北海道には、こういう女性が多いのか?
頭のいいツッコミの女性って魅力的ですよね。

北海道行きたくなるよな。
北海道観光局の差し金か?