オススメ度 100点
ユーザビリティー 0点
深遠……度 200点
『京大変人講座』で興味を持ったので購入。
halfboileddoc.hatenablog.com
サービスとは何か?
病院や診療所など、医療においても「サービス」は重要なファクターである。
顧客満足度をあげる、という観点で、サービス・接遇を改善しなきゃ、みたいな話はよくある。
しかし、そもそもサービスってなんだ?
原点に帰って考察することは案外ない。
著者は「サービスとは闘いである」というテーゼを掲げる。
これは現在の一般的な「サービス」の受け止められ方とは正反対のテーゼ。
なぜそういうかというと、既存の理論では説明がつかない現象があるから。
たとえば、寿司屋の接客の不可解さ。
老舗の寿司屋では、あくまで既存の「接遇」からかけ離れた客と主人との応酬がある。
寿司屋で通が客の場合は、極端に説明を削ぎ落としたやりとりを店主も客も行う。
むしろ初心者にはわからない提案で店主は客を「値踏み」さえする。
こんなの「接遇」という観点では大減点なはずだが、そういう寿司屋のコードに客は望んで従うのである。
また、イタリア料理店のビストロと、フランス料理店。フランス料理の方が単価も高く顧客満足度も高いため高級なサービスとされる。
が、フランス料理店の方が、店員が客にサーブしている時間も店員が客に向ける笑顔も段違いに少ない(学術研究なのでちゃんと観測結果が示される)。
それはなぜか?
ということをこの本では考察している。
サービスの関係性は常に矛盾をはらみ、弁証法的に媒介されている。
サービスは、単に歓待・もてなし・気づかいという表面的な事象だけではない。
もてなす側と、もてなされる側は、ある種の敵対関係にある。敵対は相手の否定であり、相手からの否定であるため、自分のアイデンティティが全面的に不安定化するとともに、相手のアイデンティティも不安定化する。敵対はアイデンティティを流動化し、社会という全体性を不安定なものとする。
敵対関係を通じて初めてサービスの関係に不安定性が生じ、アイデンティティが流動化する。逆にサービスを通じてアイデンティティが構築される過程が生まれる。
サービスというものを、顧客が受け身になって受け取る金銭の対価として捉えてはいけないということで、むしろサービスの捉え方を新しくすることで、関係性の中で生まれる隷属から開放しうるのではないか。
みたいな内容。
かつてない深さで、サービスについての考察がなされている。
大変おもしろい。
のだが、これはちょっと精読して僕なりの答えを出さないといけない類の本だ。
ちょっと読んで、めっちゃわかった!というタイプではなく、心の中に新たなOSをインストールしたような気分だ。
多分自分なりの答えが出るのは数カ月後か、数年後か、それとも考え続けられないか。
唯一けちをつけたいのは電子書籍としてのUI。
3000円近くする本なのに、PDFをそのまま電子書籍化したので、テキストの検索も出来ないし、マーキングもハイライトも引けない。そこだけは大減点。付箋つけたいところがいっぱいあるのに……