オススメ度 90点
20世紀までの世界は、野蛮の反意語である「文明」による進歩を理念として構築されてきた。
ところが21世紀以降、文明は失墜し、野蛮と呼びうる状況がむしろ常態化している。
内戦・紛争。民族浄化、民主主義の敗北。
ただ、近代から現代に到るまで、人権が尊重される世の中に徐々になりつつある、とみなされている。
が、その道のりには、奴隷制度とか、ホロコースト、非文明国民の虐殺など、とても人権尊重とは言えない出来事が累々と横たわっている。
(人権尊重されるなら、そもそも第一次世界大戦・第二次世界大戦なんか起こらなかっただろうし)
この本は、そういう「蛮行」についての本。
蛮行の多くが文明国によってなされている矛盾に、我々は向き合えているのか。
以下は備忘録:
・自分たちと同じ母語を話さない民族は、人間とはみなさない(スペイン人の南米侵略なども)
・「種」の概念が民族差別を生み出した。自然科学の発展が人種差別に理論的な肯定を生み出した経緯がある。(ダーウィンの進化論の都合良い引用)
→現在は人種という亜種は存在しないという考えが一般的。
・21世紀の差別の復活は反知性主義かもしれないが、昔は知性による差別の歴史があったことを忘れてはいけない
・「野蛮人」とは自文化よりも劣った人間集団とみなしていることを意味する
・「無主地」の概念→先住民の土地を無主地と規定し、征服する。
・BarbarとSauvageの語源の違い
・「人間動物園」日本でも「人類館」の存在(朝鮮人も陳列されたことがある)
・ベルギー国王直属植民地コンゴ
・人種妄想による大量虐殺がヨーロッパ列強によるアフリカ分割の時代にみられる
・優生思想と弱者の排除
・731部隊
・ヘイトスピーチ。相模原事件の背後にある思想
他者排除の理論は、人種差別、大量虐殺などにつながる。
ただ、現在のグローバル社会が目指している、出自による差別はない能力主義に基づく社会(メリトクラシー)は、進化論的思想に立脚している。その点では「知性に劣るものを排除する」傾向を生み出しやすい。
文明が発展すれば蛮行がなくなる、というわけではない。
むしろ蛮行の多くは文明国によって、文明人によって為されてきた。
難しいな。
本は15章立て。
総括するのにちょうどいい。
各章の巻末に、もう少し詳しく知りたい人への参考文献のオススメが示されているのもいい。
* * *
昨日までの世界、と合わせて読んだらいいのかもしれない。
昨日までの世界(上)―文明の源流と人類の未来 (日本経済新聞出版)
- 作者:ジャレド・ダイアモンド
- 発売日: 2017/08/16
- メディア: Kindle版
能力や出自によらず一人一人の人格を尊重するのは、当たり前であるが案外難しい。
自分の世代でも、家長主義だとか年功序列主義、男尊女卑的を当たり前に信奉している人はそれなりにいる。
こういう人の「偏見」を修正することは、案外難しい。
アインシュタイン『常識とは十八歳までに身につけた偏見のコレクションのことをいう。』
偏見の多い人は、インプットも少ないから、偏見を見直す機会もないしな。
また、病院の顧客である高齢者は偏見が当然である時代に人格形成されたものも多い。
そういう人は我々にとって当たり前の接遇が、彼らにとっては間違った対応であることもある。