おすすめ度 70点
ハードモード度 100点
halfboileddoc.hatenablog.com
『転スラ』こと『転生したらスライムだった件』が存外に面白かったので、いわゆる「異世界チート転生もの」というジャンルは流行りにまかせてだいぶ読んだ。だって、SNSとかの紹介にいっぱい出てくるんだもん。
なぜ、異世界転生ものがはやるのか?というのは考察に足るものだと思うが、一つには、昔のジャンプ『努力・友情・勝利!』のような、成長の過程を描いても流行らないからだと思う。
努力して高レベルに達するというストーリーは、逆に高レベルではないことは努力が足りない、というメッセージを読者に投げかける。
その点、チートものは「チート」つまり、運か偶然か、「不当」に高い能力を与えられた主人公が無双、つまり活躍する。
要するに、現代の読者たちは、高い能力は努力で身につけるものではなく偶然与えられたものであると解釈したい。*1
そういう現代の風潮がチートものの隆盛につながっているのだと個人的には思っている。
* * *
ただ、異世界転生チートものも沢山でてきて、マーケット的には飽和気味だ。
ひとひねり・ふたひねりが必要だ。
というわけでRPGのやり込みプレイに近いような、チート成分の低い作品がこちら。
が、スキルなし、装備なし(真っ裸!)で、大森林の中に放り出されるという話。
導入部はさいとうたかをプロの往年の名作『サバイバル』に近いテイストがある。
とはいえ、そこの考証は結構めんどうだし、まあそうはいっても一巻の途中で人里に下りてくるわけだが。ミリタリーものというべきかサバイバル・コンバットものというべきか、戦いも肉弾戦が主で、『剣と魔法』感は乏しい。
西洋中世という感じがある。
主人公もめちゃくちゃ強いわけではなく、異世界ものではあるが、チートものというより非チートもの、つまり努力して成長してゆく話である。その意味では、20世紀人の私から見ると、ことさら真っ当にみえてしまう。
まあ主人公は肉体的な成長をするわけではなさそうなので、『トルネコの大冒険』的な感じかもしれない。
俯瞰の絵が多く、岩崎夏海の岩崎書店の第1作、「空からのぞいた桃太郎」を思い出した。
- 作者:影山 徹
- 発売日: 2017/09/01
- メディア: 単行本
* * *
『空手バカ異世界』は、より「空手家」に焦点をあてている。まあまあ強く戦う相手がいないことに倦んでいた、大山倍達の若かりし頃的な主人公が、これまたトラックにはねられて、転生する。
道着のまま。
割とシンプルに、異世界『剣と魔法』の世界において、空手家がどう戦うか……という話。
- 作者:大山 倍達
- メディア: 文庫
ストーリーはともかく、書いている作者は楽しそうだ。
どんなエンディングになるのかも予想もつかない。
あ、そうだ。考えてみれば、一ジャンルとして急成長した『異世界転生もの』だが歴史が浅いため主要作品も完結していない。
ジャンルとしての完結のパターンは未だ示されていないのではないか。
古来からある物語のテンプレート:異界譚は「異界を訪れ現世に戻る」だ。だから多くは平凡な日常に戻ることが予想されるが、異世界転生の導入部のテンプレートがトラックに跳ねられているんだよなあ…これでは現世に戻ってこれない。
*1:そして血筋などではなく、偶然付与される、という世界のあり方であってほしいと思っているのだろう。