半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『新型コロナと貧困女子』

オススメ度 80点

新型コロナと貧困女子 (宝島社新書)

新型コロナと貧困女子 (宝島社新書)

  • 発売日: 2020/06/25
  • メディア: Kindle

ルポ『中年童貞』から中村淳彦の作品には興味があり、出るもの出るものチェックはしている。

halfboileddoc.hatenablog.com

貧困女子のありようは現在の世相の裏返し。
矛盾は弱いところに現れる。

そして、新型コロナウイルスは、そういう弱いところを直撃したーー

という話。

  • 労働生産性は先進各国の中で最下位、平均賃金はOECD加盟35ヶ国中18位。貧困率は38ヶ国中27位、GDP成長率は35ヶ国中34位。
  • 団塊世代の中心とした高齢者層は、男尊女卑的意識が強く、そしてエロい。
  • 新自由主義的施策が始まると、自身の優遇された雇用だけを守りながら、娘世代・孫世代の労働を買い叩いた。そして貧困に陥った女性たちに自己責任論で反省を促しながら「最後の救済」として肉体を提供するなら再分配をしてあげてもいい、という社会を作り上げた。その信じられない都合のいいプランを本当に実行して徹底した。そして、女性はみんな貧しくなった。

この辺りの考え方は、以前から中村淳彦氏の主張のまま。
そして、コロナ禍によって困った女性たちを今までのコネクションを生かして取材したのが、今回のルポ。

予想通りの状況だったが、悲惨。
セーフティーネットのない風俗業の人たちは、本当に死ぬしかない……
パパ活も激減。今の女子大生の少なからぬ数がP活で生活を維持している。そういう人が苦境に陥っている。



底辺オブ底辺の、池袋の立ちんぼの取材などは迫力があった。そこまで落ちると、コロナもあんまり関係ないみたいだ。
中村氏かくところ、コロナ禍では新自由主義的な施策は一旦引っ込められたらしく、各種の手当が、今までの施策では考えられないくらい手厚いのだという。

ただ、それでも生活が楽になるわけでもなく……

この本を読む限り、貧困女子の生活はまことに悲惨で、出口がない。

* * *

ただ、では、富裕層は貧困層から搾取して、安逸を貪っているのか?
僕の見る限りそうも言えないと思う。
富裕層は確かに生活には困っていないが、企業や日本の経済を牽引するのは彼らだ。
富裕層・貧困層の経済格差は、昔よりは拡大しているが、発展途上国や中国などにくらべて日本の格差が際立っているわけでもない。
弱いものから過剰に搾取してるから富裕層なのではない。
(どこの国も、その図式は変わらない)
はっきりいうと、全世界規模の競争に、日本は負けている。だから貧困なのだ。富裕層も世界の富裕層相手に負けているのが冷徹な事実だ。

日本の強みである高い識字率と勤勉さ、なんて、今では世界全体でみると、それほどのプレミアムはない。
中核人材層という点では、日本は東アジアではすでに平均以下に陥っている。
マックジョブを担当する貧困層は、今やアジア諸国マックジョブとほとんど差がない。

この辺りは、80年代の大学レジャーランド化(に伴う教養主義の敗北)が決定的に悪影響を及ぼしているんだと思う。
今の大学は、昔にくらべて、学生に勉強をさせるけれども、現在社会の中核にいる団塊ジュニア世代より上の世代は、アカデミアとしての大学を知らない世代だ。
結果的に、高等教育を受けた人間をうまく生かしきれていないように思う。

日本の大学生の学費は高額で、みな奨学金の返済に苦しんでいる。
だが、人生を賭けて大学を卒業して、それで、世界に伍していける確固たる実力が得られているかというと、そこまでのバリューはない。
勉強するベクトルが違うのではないか?
でも、勉強すらしない人、その人が経済的に安定することは、この全世界競争では不可能なのではないか?
どうにもモヤモヤする。

コロナで困窮している人たちへの補助で、今回は大幅に財政出動が行われた。
その原資は誰が出すのか、というと、富裕層だろう。
コロナで海外逃亡も難しいし、さらに増税になるんだろうな……