半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『貧困とセックス』

貧困とセックス (イースト新書)

貧困とセックス (イースト新書)

両者ともに、女性の貧困に詳しいルポライターである。

鈴木大介
halfboileddoc.hatenablog.com

中村淳彦
halfboileddoc.hatenablog.com

もうちょっと読んでいるのだけれど、このBlogにはこれだけしかアップしていないようだ。
女子大生風俗嬢

AVビジネスの衝撃
AVビジネスの衝撃 (小学館新書)

AVビジネスの衝撃 (小学館新書)

Kindleにはあった。


もともとはエロネタを扱うサブカル雑誌の人たちらしいが、あまりにエロの世界と女性の貧困問題がリンクしているために、そちらの方面の社会派ルポライターになったりした人たち二人の対談集。
多分この本と「最貧困女子」「中年童貞」あたりを読んでおけば日本における貧困層カルチャーの救いのなさは俯瞰できると思う。

二人の著作は読んでいたけれども、扱っているカテゴリーが似ているので、おんなじようなものだと思っていたが、鈴木氏と中村氏の間にはスタンスの違いは結構あるらしい。(鈴木氏はアツいけど中村氏は醒めているらしい。)

文化人(多分宮台真司とかだろう)が「援助交際」を語る90年代には、援助交際は「自分探し」とか、不全とした学校・社会の中での病理的側面が語られていたが、彼らが2000年代に援助交際や女性風俗の現場を取材すると、若者の貧困化ゆえの売春(高校生が売春したお金で家族を養っていたりとか!)ばっかりで唖然とした、らしい。

現代の若者をとりまく環境の過酷さや、奨学金ビジネスの闇であるとか(これは僕も現場で感じるところ)そういう話。
確かに救いがないよなあと思う。そしてそれも改善される方向にもなく、どんどんひどくなりつつある現状。
そして日本の風俗マーケットに、若い女性がどんどん参入することで、(必要悪でもあるのだが)貧困セーフティネットが崩壊していることなども。救いのない話だった。多分コロナウイルス騒ぎは、この現状をさらに悪化させることになるんだろうなあ。

そして、第5章「貧困と中年童貞」では、中村氏の介護経営の体験とそこで出会った中年童貞男性の話がもう一度クローズアップされる。
(中村氏のこの話は、『中年童貞』に詳しい。漫画版もある)
中村氏の主張は、

  • 介護=超ブラック企業、やりがい搾取ビジネス
  • 中年童貞は対人援助に向かない。やつらは国を滅ぼす、

みたいな書き方をしているけど、鈴木氏は、中村氏の「最貧困中年童貞はある種の精神障害であり加害者」という論に対して、むしろ加害者像ではなく被害者としてとらえていかなければいけないんじゃないか?と反論している。
現代の被害者として認識して有効活用できないか?加害者として排除してゆく社会には救いがない。そもそも許容範囲の狭い日本の仕事のありかたにも問題があるんじゃないか?と。
彼らが国のお荷物にならないような仕事のありかたを考えないと、絶対にとんでもないことになるよね。
とたしなめられていて、ちょっと面白かった。

視点が変わると、意見も変わる。このクソみたいな救いのない話題のなかで、唯一建設的な意見に着地し、ほっとした次第だ。