半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『世にも奇妙なニッポンのお笑い』

オススメ度 90点
博識度 90点

チャド・マレーンはオーストラリア人。
なぜか日本に住み着いてお笑い芸人もやることになったパース出身の元優等生。
お笑いもやっているし、お笑いに関する研究・翻訳などもしている人。

わかりやすくおもしろい話だった。この本話題になる

お笑い芸人は、ジャズミュージシャンなどと同じように、フロントプレイヤーそのものが理論家でもあるのだと思う。この前はナイツの塙の「言い訳」を読み、深く得心したけれども、Youtubeのカジサックなどをみていても、M-1キングオブコントなどに出ている常連のグループは自分のお笑いのネタの作り方や、お笑い界における自分達の立ち位置、構造を深く理解していることがうかがえるのだ。
halfboileddoc.hatenablog.com


今まではお笑い芸人がそこまでの理知性を発露する機会もなかったし、あくまで舞台裏での事象であったが、最近はこういうお笑い論がぽろぽろ伝えもれる時代にはなった。

チャド・マレーン、文章の才能はかなりあるように思った。
海外のお笑い文化(歴史)と日本のお笑いとの比較文化論などもあり、外国人の立場で日本のお笑いを(まあまあ好意的なスタンスなのだが)紹介している。
海外の「スタンダップコメディー」にあるような政治批評・風刺のようなものが主流。(政治や宗教、人種と下ネタが欧米の4大ネタというのがチャドの持論)もともと欧米のお笑いが、宮廷の道化から発しているのに対して、日本のお笑いの淵源が祝福芸であるから。欧米のやっていることが高級と思われがちだが、日本人はこういうネタはほとんどないのは、そもそも日本人が社会批判お笑いを求めていないからなのではないか、と。*1

日本の均質性が高いからこそのハイコンテクスト社会が、お笑いについてはいい風に作用しているが、だからこそ、海外に持って行くときの難しさがあるんだろうな。

お笑いを翻訳することの苦労についても面白かった。
板尾創路が関わった『魁‼︎クロマティ高校 THE ★MOVIE』のダジャレの多いセリフの翻訳を頼まれて、イギリスの映画祭でめっちゃうけた話などもよかった。

映画観てみたいなと思ったけど、アマゾンプライムにはないみたいだ。残念…

* * *

しかしロスジェネ世代としては、ナイツの本といい、この本といい、現在から振り返ってお笑いの系譜を語る際に、『ラーメンズ』が全く言及されないのは残念なことだ。多くのお笑いに影響を与えたはずだけど、直の後継者とみなされる存在がなかったからだろうか…

*1:唯一のメジャー成功例は爆笑問題の時事ネタかなあと思う。あれはバランス感が絶妙ですね