半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『ピケティ入門たった21枚の図で『21世紀の資本』は読める!』

オススメ度 100点
研究室とかの抄読会を思い出す度 100点


話題になった大作、というのを案外見ずに済ます悪い癖があります。
実は、『タイタニック』みてないしマーベルシリーズも、スター・ウォーズもエピソード4〜6ときて1,2で止まっている。
『シン・エヴァンゲリオン』もまだだ。そういや新海誠監督の『君の名は』『天気の子』もそうだ。

なんか、はてな界隈の映画評とか書評を数十サイトみていると、「別にいいか…」という気持ちになってしまうのだ。
結果、「群盲象をなでる」みたいに、ちょいちょい感想にでてくるエッジの効いた部分だけは知っているような知っていないような感じになる。

ピケティ『21世紀の資本論』も、そういう関わり方をしている。
読んでいないけれども、要諦と結論は随分前から耳にしていたし、ピケティの提唱するような国際的な累進課税制度は、世界情勢の安定のためにはむしろ望ましいのではないか、とは思っている。野放しにしていたら格差はどんどん拡大してしまうだけだから。

この本はそういう数多ある『ピケティ副読本』の一つだが、多分一番わかりやすいのじゃないかと思う。
図表だけみて、そこに簡単な解説だけつけて紹介するという、たしかに大学の抄読会ってそんな感じだった。

特に『21世紀の資本論』はr >g というシンプルだが挑戦的極まりない法則を事実やデータを羅列して実証することに紙面の多くが割かれている。
その論旨や実証については、経済と数学の素養が多分にないと楽しめない。*1

20代の自分なら無理して読んだかもしれないが、今の自分にはその論理の妙を辿る時間も精神的余剰も持ち合わせていない。

むしろ r>g という法則が明らかになっちゃった世界で、何が起こるか、が市井の一個人としては気になる。

* * *

長らく「市場原理主義」つまりマーケットに委ねることこそが正義なのだ、という考え方がグローバルでは優位だった。
全世界的に政治・経済が開放される現象の理論的なバックボーンになっていたわけだ。

しかしその結果は 『Factfullness』のような世界の保健衛生が改善されるというよい面もあるが、反面中産階級の没落と富裕層と貧困層への二極化(エレファントカーブ)は進み
「あれ?これなんか変じゃね?」となっていた。
それが「いやいや、市場に委ねていたら、r>g だから格差は絶対に拡大しちゃいますよ」ということを示しちゃったのが、ピケティ。

いわば富裕層にとって「不都合な真実」をピケティは示してしまった。

* * *

ピケティの「21世紀の資本論」以降、富裕層への富の集中を妨げようという動きはわずかながら生まれてきている。格差が拡大すると世情は不安定になるからだ。
ただ、これは今後10年〜20年でどういう風に進展するのか、ちょっとわからない。
マルクスの『資本論』は具現者としてのレーニンスターリンを生み出した。
ピケティの『21世紀の資本論』を受けて、どのようなムーブメントが生まれるのか、まだわからない。

 それによって、自分の老後の計画も、きっとかなり変わると思う。
なんとなくだけど、ある程度「ピケティ」的な考え方で再分配が行われた方が生きやすい世の中になると思う。
でもマジで累進課税 85%とかになるのはちょっと勘弁……とは思うけれども。
でも革命で吊るされたり、マッドマックスみたいな愚連隊に家を襲撃されたりするよりはましかも。

*1:相対性理論も E=mc2 という簡単極まりない法則の証明に多くが割かれているという意味では、似た構成ではある。世界を変える理論って、こういう残酷なシンプルさがあるよね。