半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『置かれた場所で咲きなさい』

オススメ度 80点
言葉の一人歩き度 100点

置かれた場所で咲きなさい

置かれた場所で咲きなさい

これも、Kindle日替わりセールで買ったものかもしれない。

岡山にあるノートルダム清心の学長を30代でまかされ、以後ずっと同学の理事長を勤めた渡辺和子さんの、言行録のようなもの。
それまでは老齢の欧米人のシスターが学長になるのが通例だったらしいのだが、異例の若さで抜擢された。
もちろん使命感に満ちてもいただろうが、周りからのやっかみや評価、毀誉褒貶に疲れ果てたこともあったらしい彼女が、
日々の教師・修道士の中で感じ入った言葉の記録。

「名言」のようなものが、大きなページにでかでかと大書され、その説明が短く平易な言葉で綴られる。
やはり長年生きてきて接してきた言葉の集大成なので、普遍的な、何かを感じうる言葉だらけだった。
いいことばっかり言うてはる本である。

宗教家でもある彼女は論理的な・分析的なことを言わない。
選び抜かれた通じやすい言葉は、何より読みやすい。

ただ、「置かれた場所で咲きなさい」という言葉だけを抜き出してしまうと、
なんか、「いまの世界のありようを改善する努力をせず、我慢しなさい」みたいに伝わってしまう危険がある、というか現実そうですよね。
僕、最初にこの言葉を週刊誌かなんかで見たときに「またBBAが若者を押さえつける言葉いってらあ」と思ったもん。

社会的立場が上の人、例えば上司などが、この言葉を発する時、その受け取られ方には細心の注意を払わなければいけないと思う。
でもクソ野郎ほど、この言葉をそういう意味で使うんだよなあ。

置かれた場所で咲く努力はしなきゃいけない。
でも、場所を変える力を持った人間は、場所をよいものにする義務があると思う。
ノブレス・オブリージュ
(ルネッサンース!的な感じで、ワイングラスで乾杯しながら)

そういう意味では、「悪人正機説」とかと同じで、悪用されやすい、危うい言葉だよなあと思った。
善意で発せられた宗教家の言葉は、たやすく悪用されやすい。
これもまた歴史的事実であろう。

同じようなニュアンスの言葉にしても、最近よんだ「移動力」にあった、
halfboileddoc.hatenablog.com

「最善の選択」ではなく、「選択」を「最善」にしよう。

の方がいいかな。一番いいものを選ぶなんて、不可能なんだから、一旦選んだら腹を据えて努力をして後悔ないようにして、結果的に、その自分の選択肢が最善といえるところまで持って行ったらいいじゃん。
というやつだ。

* * *

ちなみにあとがきで触れられているが、この方は、2・26事件で、青年将校に親族を、自分の見ている前で殺されたという壮絶な経験を持つ。
やはり許すことはできないという深い怒りを数十年心に秘めていたのだが、意を決してその後処刑された青年将校の遺族に会いに行き、わだかまりがとけた逸話などもあり、単なる綺麗事を言われる方ではない。
慈悲深いシスターにも心の中には修羅が住んでいる。
 そのエネルギーをいいものに昇華するか、ダークサイドに落ちるのも、その人の選ぶ道である。