半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『老師と少年』南直哉

老師と少年 (新潮文庫)

老師と少年 (新潮文庫)

老師と少年との問答。
あからさまに宗教とも哲学とも持ち出さず、生きる上での悩み、実存の悩みに対して、いわばソクラテス方式の問答が行われる。

宗教と哲学、ニヒリズムの、わかりやすい補助線になりうるお話。
遥か過去から今まで、はてしなく繰り返されてきた宗教的な問いかけ「私はなんなのか?なぜ私は生きているのか?」を、今までの哲学が出した回答をふまえた上で、専門用語を使うことなく、口語で説明しようとしている態度には好感がもてる。
スピリチュアルだとかの人達が醸し出す、野狐禅感はない。
いいと思います。だからこそ、すぐ答えがでるものでもないと思う。



私は37で、もうすぐ不惑になりなんとする年である。
なおかつ若い頃には、凡百の悩み深い青年と同様そういう悩みがもち、いろいろな本を読みあさった経験があるので、いまさらこれ読んでもなあ、という気はした。
もし私の若い頃、この本があったら…効率よく救われた気持ちを得る事ができたかもしれない。

でも、結局のところ、いかに正しい答えであったとしても、自分で考えて導きださない答えというのには価値がない気がする。この本はそういうところも正直で「自分で考えてみなさいね」とやさしく諭す先生のようなやわらかさがある。


著者近影が 佐々木蔵之介をさらに痩身にしたうえで、さらに余分な体毛を取り除いたような人である。
きっとドラマ「不毛地帯」で壱岐とくっつく女性の兄(壱岐の上官で、東京裁判の際にソ連の官憲に追いつめられて自殺した人の息子で、戦地から帰ってきてから高野山に行って出家してしまった)を佐々木蔵之介が演じているが、この人をモデルにしたに違いない。