- 作者: 池上彰,佐藤優
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/10/20
- メディア: 単行本
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大世界史というネーミングに正当性があるのかどうかはともかく。
いろんな世界の諸相をわかりやすく紹介することに定評がある池上彰さんと、対ロシア方面の外交専門家であり、神学家であり文筆家のに佐藤優の対談本。
体裁としては、佐藤優は日本の中では知りえない・感じられない特にロシア・中東方面に精通しているので、対アメリカ史観だけではない国際情勢の話。
日本人はアメリカ・ヨーロッパの方しか向いていないですから、複眼的な視野として彼の視点はとても貴重に思います*1
少し古い(2015年くらいで、イスラム国がまだまだ健在だった頃)ですが、情報としては陳腐化はしていません。
以下、備忘録。
- 現在の中東からヨーロッパへの移民・難民は、過去何度も繰り返されてきた民族大移動にも近く、これは時代変化を目の当たりにしていると。
- イスラム国のあり方はソ連ができる前の革命ロシアに似ている(その後ソ連もトロツキーの世界革命路線からスターリンの一国社会主義に変化した)
- アラブの春は結局民主主義をつぶす機能しかなかった。民主化のチャンスはアラブ諸国では近未来においてないだろう。むしろアラブの分裂に応じて、非アラブのイランとトルコが帝国として影響力を拡大する政策をとっている。
- トルコのエルドアンは多元的で寛容である本来の意味での「帝国」とは似て非なるもの
- 中国の古典「周易」には『行き詰まったら変える。変えたら通る。通ったら続ける』とある。だから共産主義に行き詰まると資本主義化させるリアリズムがある。-中国の教科書には、自分たちが世界秩序を作ったプレイヤーである、という自負がひしひしと伝わってくる。一方韓国の教科書は世界の教科書の中でも珍しい「テロリスト史観」によって貫かれている。
- 人造国家ギリシアの成立過程
- 東ドイツでは、意図的に共産党一党独裁ではなく、ナチス党を国民民主党という名前で残しさえした。
- ロシアは国境の外側にバッファ(緩衝地帯)を置くことに執着する一方でもともと領土の拡張には慎重(近年のクリミアはむしろ珍しいケース)
- 『20世紀の歴史』(エリック・ホブズホーム)、彼の言う20世紀とは1914年の第一次世界大戦がその始まりで1991年のソ連崩壊が終焉でこれを「短い20世紀」と呼んでいる。となると20世紀は「ソ連の世紀」と考えたくなるのだが、おもしろいのは、これを「ドイツの世紀」だとしているところ。ドイツという新興の帝国主義国をいかに封じ込めるか、そのために世界は必死になった。結局の所、ドイツを封じ込めることは出来ずに終わった。という話。
- 沖縄は、現在世界の潮流である少数民族の民族自立の観点でとらえると(例えばスコットランド独立の国民投票とか)よくわかる。国民国家がゆらぎをみせている。ハワイ州知事は沖縄系移民で、ハワイ大学と琉球大学と名桜大学で沖縄のディアスポラ・センターを作ろうという動きがある。
- NPT体制はいずれ崩れる。もっと多数のプレイヤーが核カードをもつことになる。例えばロシアは数年後に起こりうる核拡散によって自国の核カードの価値は相対的に下落することがわかっているから、今核カードの優位性があるうちに取れる陣地は全部とっておけ、というのがプーチン発言の真意
- 当用漢字が常用漢字に改められたのは1981年
- 宗教やイデオロギーという集団的な価値観がなくなると、エリート層は個人の利益増大だけに関心を集中させる。一つの階層全体の規模でナルシシスト化現象が起こるわけだがそれが行き着くところには、個別的な社会集団のきがかりしか反映しなくなった、文化としての程度が低い文化
- 内田樹の思考の鋳型は陰謀論そのもの
- 右も左も反米陰謀論が横行している。知識人が大きな物語を作らなければ、その隙間をグロテスクな物語が埋めていくことになる。その一つの表れが、排外主義・ヘイトスピーチ、あるいは「日本すごい」のナルシシズムの物語
歴史とは判断基準として他に何も頼るものがないときに、それでも頼りにしうる何かなのです
対談で、全体としてはまとまりがないのですが、しかし現代の諸相に総花的に斬り込んでいて、退屈しません。
*1:かくいう僕も完全にドメスティックな分野ですからね…