半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『悪と全体主義〜ハンナ・アーレントから考える』

世界を席巻する排外主義的思潮や強権的政治手法といかに向き合うべきか? ナチスによるユダヤ人大量虐殺の問題に取り組んだハンナ・アーレントの著作がヒントになる。トランプ政権下でベストセラーになった『全体主義の起原』、アーレント批判を巻き起こした問題の書『エルサレムアイヒマン』を読み、疑似宗教的世界観に呑み込まれない思考法を解き明かす。

基本的には、ドイツ生まれの政治哲学者ハンナ・アーレントの有名な三つの著作、
全体主義の起源
『人間の条件』
エルサレムアイヒマン
を紹介し、ハンナ・アーレントの足跡をたどった本。

全体主義の起源』『人間の条件』までは、ドイツのナチズムがなぜ成功したのか、ホロコーストに至るまでの帰結の論理的な見解を解明しようとした試みで、論壇からも世間からも歓迎された。
が、
エルサレムアイヒマン』において、批判を恐れずに、正義の相対化を行なったところ、ナチス=絶対悪、ユダヤ=被害者の図式を崩したくない人達からめっちゃ叩かれた。

これはアーレントの知的誠実さの真骨頂なのであろうと思うし、2024年の現在から見ると慧眼としかいいようがないのだが、それはやはり受け入れ難いことだったのだろうと思う。

現代は第二次世界大戦前夜以上に全世界が大衆化した時代であり、今後も時勢の不安定によって煽動が起こりうるし、実際に起こっているわけで、ハンナ・アーレントの思索は、現代においても力を持ちうる。

今我々が直面しているさまざまな現象は、過去の賢人が喝破しているわけで、
こういう過去の言説にも思いをはせる必要があるよね。自分の頭でも考えなければいけないし。

いやはや、集団の人間模様というのは難しいよ。

以下、備忘録

全体主義はいかにして起こり、なぜ止められなかったのか
ユダヤ人問題の「最終解決」=当初はドイツからの追放を表していたが、「絶滅」政策の隠語となった
・近代的な「国民国家」がスケープゴートを必要としていたからであり、国家の求心力を高めるための「異分子排除のメカニズム」が働いていた
・当時の社会に通奏低音のように響いていたユダヤ人への憎悪や嫌悪感が文学作品に描かれるほど浸透していたということ
・「ドレフュス事件」と反ユダヤ主義
カール・シュミットは「政治の本質は、敵と味方をわけることだ」
・国民(ネイション)は領土・人民・国家を歴史的に共有することに基づいている以上、帝国を建設することはできない
ボーア人が「非常手段」として生み出したのが「人種」思想だったとアーレントは考察した
ロシア革命第一次世界大戦後、ヨーロッパ域内に大量の難民が発生した=「無国籍者」が大量に生み出された。「国民国家」の形成によって各国は国民登録制度を定めたが、無国籍者は方の保護下の外に置かれることになる。戦争や革命によって人間でありながら「人権」を持たない人々を大量に生み出した
・国家はそうした諸権利や利益と引き換えに「国民」の忠誠心をつなぎとめてきました。その「国民」のための資源を「国民」ではない者たちに無条件に分け与えるわけにはいきません。
・資本主義経済の発展により階級に縛られていた人々が解放されることは、大勢の「どこにも所属しない」人を生み出すことを意味した
・平成は政治を他人任せにしている人も景気が悪化し、社会に不穏な空気が広がると、にわかに政治を語るようになる。
・救われたいともがく大衆に対して全体主義的な政党が提示したのは、現実的な利益ではなく、そもそも我々の民族は世界を支配すべき選民であるとか、それを他民族が妨げているといった架空の物語でした。
陰謀論にかぶれてしまうとあらゆることが「それらしく」見えてきます。
・こうした心理状態はいじめという現象の中にも見出すことができる。いじめの第一歩は仲間外れを作り出すことです。任意の人物を、集団の意思決定のネットワークから排除する。
ナチスは「ユダヤ人がいない世界」を作ろうとしたのではなく「そもそもユダヤ人が存在しない」世界に仕立てようとした
・悪が自分たちと同じ「どこにでもいそうな市民」だとしたら、自分もアイヒマンのような人間になる可能性がある、ということ
・政治においては「服従」と「支持」は同じだ
ユダヤ人社会や大戦後に建国されたイスラエルを覆っていた「ユダヤ人は誰も悪くない」「悪いのはすべてドイツ人だ」というナショナリズム的思想に目をつぶるという選択肢は彼女にはありませんでした。
アーレントが複数性にこだわっていたのは、それが全体主義の急所だからです。複数性が担保されている状況では、全体主義はうまく機能しません
・二項対立思考はダメだといっている人自身が二項対立思考しているというのはよくあること
アーレントは「人間」であることの条件として1:労働、2:仕事、3:活動を挙げ、それらの起源を歴史的に考察しました