Twitterの麻布競馬場氏の本。
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東京にいる人々の人生の振り返りの独白という体裁の小説。
『Twitter文学』と称されるが、140字ごとで段落になっているため、リズムが軽快で読みやすい。
twitterであらましは読んでいたので、新味はなかったが、こうやって束になっていると、また別の咸興も湧いてくる。
都市生活者の苦悩。
都会の夜景を見つめてみると、その窓のあかり一つ一つには、それぞれの幸福や不幸がある。
この本では、圧倒的な貧困や病気による苦悩は描かれていない。しかし、本人の自我、プライドの傷つくさまがたっぷりと描かれる。
それは、本当の貧困や苦痛に苦しむ人にとっては「生ぬるい」かもしれない。
しかし、だからこそ、特定の人間にはより深刻にぶっささることもあるだろう。
麻布競馬場氏が描くのは特に「受験勝者」と言われるような人たちの20代、30代。
自分のパラレルワールドのような気がして、親近感も切迫感も段違いに強かった。
生きるって難しいなあ、と思う。
頑張った結果、プライドを満足させても、新たなハードルがすぐ現れる。
東京には、そのハードルが、果てしなく続いているのだ。
* * *
私は広島県出身。
小学校こそ塾に通い*1、神戸の某進学校に入学した(中高は六年間下宿で過ごした)。
中学高校はあまり出来がよくなかったけれども、高1くらいでなんとか立て直して、神戸大学の医学部に入学。
医者になり、その後は中国地方のみで勤務をして今に至る。
SAPIXとか鉄緑会とは無縁で今のキャリアにたどり着いた人間だ。
私はこういった都会のヒエラルキーとか無縁なところで生きてきた。
が、東京にでてきて自分の運命を切り開くという人生に、憧れなかったわけではない。
(それを期待するだけのパラメーター付与と資格はあった)
だが、田舎において医師という特殊職業の強みでプライドを傷つけられないままぬくぬくと今まで生きている。
私には、こういう細かい差異の文化に憧れもある反面、その世界に参入できなかった、アンビバレンツな感情もある。
「私は勝負から逃げた人間だ」という思いが、今になってもぬぐいされない。
高学歴ではあるが、繊細で世間知の低い人間の没落するさま、この本には何度もでてくる。
人生は地獄なのか、天国なのか。
痛い痛い。
人間の痛いさまが、容赦無く描かれる。
それは、もし東京に出て行った僕、というものがあったら、味わった並行世界の無限地獄。
だから、他人事ではないのだ。
* * *
大人になるってことは、自我と現実との折り合いを付けるってこと。
10代から20代、就職のあたりが一番難しい。
20代が奇跡的にうまくやれても、結婚や出産によってライフステージがかわることもある。
そこをうまくやり過ごせても、30代、40代にはミッドライフ・クライシスなんてものも待ち構えている。
田舎でぬくぬく暮らしていても、「自分は自分の能力を本当に試していないんじゃないか」と思ったりもする。
人の「自由意志」というのは案外やっかいだ。
*1:『田舎の神童』みたいな枠だ。