半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『ルポ 消えた子どもたち』ついでに『奇子』

オススメ度 90点

18歳まで自宅監禁されていた少女、車内に放置されミイラ化していた男の子─。虐待、貧困、保護者の精神疾患等によって監禁や路上・車上生活を余儀なくされ社会から「消えた」子どもたち。全国初の大規模アンケート調査で明らかになった千人超の実態を伝えると共に、当事者23人の証言から悲劇を防ぐ方途を探る。2014年12月に放送され大きな反響を呼んだ番組取材をもとに、大幅に加筆。

私は医療畑。
内科なので、大人・高齢者向けの診療をしている。あんまり子供には縁がない。
しかし知人には教育クラスタ、小児クラスタの人もいるし、自分も繊細な子供を持つ親でもあるわけで、子供業界の話は時折耳にする。
具体的な話はできないものの、虐待など親子関係の問題はなかなか壮絶であるらしいね。

親の側にも、子の側にも言い分はあるだろうとは思うけどね。

子供は弱い存在。
先史時代には子供は人権もなかったし、人間扱いされない時代もあった。
イギリスの産業革命では子供も労働力として劣悪な環境の中で働かされていたりもした。
文明が発展して、子供にも人権が付与されることが当たり前となり、弱い存在として守られるようになった。
めでたしめでたし……かというと、世界は善なる方向に向かっているわけでもないらしい。
飽食日本で餓死をしていたり、社会的に隔絶させられた子供もいる。
日本全国で、いつのまにやら消えてしまった子供、というのは概算すると1000人以上いるとか。
多くは死んでしまうのだろうし、なんとか生き残った人も、壮絶な発達過程から、「ふつう」の生活は送れなくなってしまう。

私は小学校の時は、「外れ値」の人間であったから、マスプロ授業に参加し、小学校で無駄な時間を過ごすことが耐えられなかった。
しかし、こういうルポをみていると、人生の一時期、横並びにさせて強制的に共同生活を行わせた効用も一定数あったよなあ、と思い直した。
給食がライフラインそのもの、という子供だって、今は稀ではないらしい。

この本では、「消えた」けど運良く生き延びてでてこられた18歳まで実母に監禁されていたナミさんのケースレポートをはじめ、いくつかのケースが詳細に語られている。
いやはや。
おそらく、高度成長期やバブル期を経て、日本がロスジェネの衰退期に入ってから、余剰資本の再分配に余裕がなくなったのが一因だろう。
こういう社会的な問題を抱えた層に十分にリソースが行き届かない、という側面もあるとは思う。
今日よりも明日のほうがちょっと悪い世界では、人の優しさや余裕は、頭打ちになる。

* * *

ただまあ昔の農村社会とかでも、「座敷牢」システムはあったわけで。
自宅に子供を監禁するという話は、古くて新しい話なのかもしれない。

奇子 1

奇子 1

それこそ、つい最近 Kindle日替わりセールで取り上げられていた手塚治虫の『奇子』なんかも、そういう話ではある。*1
これこそ、大家族のエゴにより、子供が座敷牢に監禁され、ある種の性的虐待の連鎖、発達過程の障害というのを(いささか誇張気味ではあるが)描いている。問題は、おそらく手塚のフェティシズムで、こういう境遇の登場人物を、魅力的に描きすぎるよね、手塚はね…。

*1:Kindleの日替わりセールで、手塚全集の1巻だけ99円で売るの、本当にやめてほしい。何度か読んだことあるやつでも、ついつい読んでしまって、そして、2巻・3巻を通常価格で買う羽目になってしまう。今まで何度この手にハマったことか!