半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『スタインウェイ戦争』

休日なので、ちょっと趣味のコーナーで。

オススメ度 100点…

コロナでみな在宅を強いられているので、Bookcover Challengeが流行っている。
チェーンリレーなので、指数関数的に増えるという点で私はあまり賛成していないのですが、友人の愛読書を知るという意味ではかなり興味深く、面白そうな本を随分紹介してもらいました。

そのうちの一つ、市内の医師会のK先生が紹介されていたこの本。
さっそくポチってみたわけです。

ピアノの銘機、スタインウェイ
実はスタインウェイにはヨーロッパで作られる「ハンブルグスタインウェイ」と「ニューヨークスタインウェイ」の二つがある。日本にはハンブルグスタインウェイが輸入される慣習になっていたのだが、その輸入には一つの楽器会社(松○楽器)が代理店となり、調律やメンテに関しても完全にその楽器店が独占する状況が続いていた。らしい。
まだ「スタインウェイ・ジャパン」もない時代の20世紀の話。

今ではこうした特殊な状況は改善されていると思うが、その独占体制に敢然と立ち向かったのがこの本の主役、高木氏であるらしい。
語りの書き起こしという自伝なのであるが、その孤軍奮闘はとにかく痛快だった。もちろん片側からの話でしかないことは留意しておく必要はあるだろうけど、圧倒的優位の松○楽器が、最終的には公取委に怒られ、高木側の勝利に終わる。
確かに今はこういうの少なくなったけど、昔ってこういう抱え込みとか独占って、結構えげつない締め出しはあっただろうと思う。

高木氏と、松○楽器、双方にも言い分はあるだろうけれども、決め手は「どれだけピアノが好きか」という熱量だと思う。もうそれは高木氏の圧勝。そしてピアノに対する情熱と技術へのあくなき追求心…ビジネスはやっぱり情熱が強いやつにはかなわない。
医療もそうだけど、商売上手であるより、医療をよく理解し、技術を極めた自分の医療分野に自負のある人に任せたい、って思うもんな。ひるがえって、自分にはその情熱がきちんとあるかどうか…技術とアートの前では人は謙虚にならないといけない。

しかし令和の現代でも、ここまでコンプラ違反ではないだろうけど、寡占されているマーケットなんていくらでもわけで、どんな分野でも闘っている人はいるんだろうな。

* * *

実は私の家にもNY.スタインウェイがある*1
高木氏が先陣を切って独占体制を崩したおかげで入手しやすくなったのだろうと思う。
スタインウェイ・ジャパンによる全国の管理体制もできているし*2、まあこれは昭和の黒歴史の一つなんでしょうね。

私はトロンボーンも吹くし、最近はピアノも触るのだが、トロンボーンというのは自分の心の中の「音」をそのまま伝える楽器。だけど、ピアノというのは、ピアノに人格というか妖精でもいるのかという感じで、ピアノと自分の共同作業って感じがする。出てくる音は、自分だけのものじゃないんだよな。いい楽器はやはり楽器の方からアイデアやヒントがおりてくる感じがします。その点ではピアノってかなり特殊な楽器だと思う。

*1:K先生のところにもあるらしいし、調律は高木氏に頼んでいるらしい。スゲー…

*2:うちのピアノは、知り合いの調律師が気がつくとスタインウェイ専属の調律師になってらっしゃったので、そのつてで購入した