半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『戦略人事のビジョン〜制度でしばるな、ストーリーを語れ』

オススメ度 90点
読むこちらがまだ熟していない度 100点

GEの人事を渡り歩き、人事のスペシャリストとして有名な八木氏と、神戸大学経営学部の金井氏の共著。

前回にも書いたが、人事のことで悩みが多いのを反映してか、自分の読書リストにも人間関係・コミュニケーション、人事関係のものがけっこうある。
まあ、人の悩みの多くは人間関係から発するのでムリもないのだが、ここ最近は特にそう。

八木氏のメッセージは明確。

伝統的な(これは「終身雇用、年功序列的な、ということだ)企業の人事では、多くが、静的な環境の中で人材をローテーションしてやりくりしていく「継続性のマネジメント」が当たり前とされているけど、本来人事は「戦略」にそってマネジメントすべき。ということ。
日本企業は伝統的に「徳」による経営を標榜しているが、強さを獲得してこなかった。
日本企業の「人事部」のイメージは情報がオープンではなく社員の個人情報が集約されるブラックボックスの中で決められている。おかしなことをやっていなくても過度に閉じた部門は信頼を得にくい。こういう事態は、人事部自体に戦略性が欠けているから。
それが当たり前になれば、人事の担当者さえもおかしいと思わなくなる。

要するに、人事はトップ・マターであるべきだし、人事のトップは経営陣と考えがずれてもいけない。
人事異動ありきで考えてはいけないということ。
管理職ポストの数というものは、ビジネスの現実が決めるものでポストがまずあるわけではない。

八木氏の部分は、氏の考える人事のありようと八木氏のやってきた足跡がシンプルにまとめられている。金井氏担当の部分は、組織に置ける人事統括に関する一般的な理論やおさえておくべき用語がわかりやすい。
本の中で実践と理論の両側を行ったり来たりするので理解はしやすいように思う。

新書という入門編書籍であり、少し総花的な記述になっている部分もあるけれども、何度か読み直して咀嚼する必要はありそう。経営トップ、それから人事担当の人は読んで損になることはあるまい。
例えば部門の中の人間関係からのトラブルが頻発し職場の人間関係に悩んでいる、という限定された問題について語る本ではない。あくまで 会社組織の中での人事とはどうあるべきか、そこにはどのようなビジョンを持ってやっていけばいいのかという大きな話が中心。まあ「ダメな人事のあり方」はよくわかった。顔や方針の見えず、責任をとらない人事はダメだ。

いい本だと思ったが、人事の戦略性とかそういうことに関する知識と経験があまり深くはないので、本の評価する資格はないなあ。うちなんて中小企業で、そこまで制度化された人事部ないし。この辺りの分野の本をもう少し読んでみよう。

ラインマネージャーの仕事と人事担当者の間の仕事の線引きの仕方については、答えがよくわからなかった(多分企業ごとの差異も大きく、正解というものはないが、人事が「奥の院」になってはいけないというのは普遍的な正解)。

以下、備忘録:
・制度は権限を生み出す
・経営の目線で人事をし、人事の目線で経営をするのが真の人事担当者。
・CEOの仕事の8〜9割は人の問題
・自分は優秀だと思い込んだ人事担当者は傲慢になる傾向がある。
年功序列・終身雇用・企業内組合は戦後の日本企業が熟練労働者を社内に確保するために編み出した巧妙な戦略だった。(とりわけ昭和30-40年の高度成長期にはこれらの制度はきわめて戦略的に機能した)
・人間は「ちょっとだけ不公平」な環境に身を置いた方がやる気がでるもの
・人間ほど生産性が飛躍的に向上する経営資源はない。
・リーダーシップを持った人材というのは、それを育くんでいる環境においても、滅多に生まれ得ないものだ。
・チェンジを起こしたかったら、賛成してくれる人を増やすより反対する人を減らせ
・ナインブロック(9-block)
・GEの「勝ちの定義」はGrowthとReturn。
・目標は報酬と結びついている時は成功確率7〜8割の困難度の時、報酬と結びつかず内発的動機に影響を与える場合は成功確率5割くらいの時に本人のモチベーションをもっとも高める。
・転職が35歳までが限界なのであれば、それは日本企業の管理職選抜システムのせいではないか
・Indoctorination(教化)=自社の価値観を社員に教え込む、
・どんな仕事をしている時にも、自分の働き方を方向付けるよりどころ=キャリア・アンカー(エドガー・H・シャイン)