半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『ITシステムの罠31』

オススメ度 90点

ITシステムの罠31 システム導入・運用で絶対に失敗しないための本

ITシステムの罠31 システム導入・運用で絶対に失敗しないための本

これも生々しい本。
いわゆるITの新しいシステムなどを導入する時に、陥りやすいピットフォールを列挙している。

医療関係で言えば、新しい電カルシステムいれよーっととか、人事評価システムいれよーっととか、電子化されるシステムを入れる時に、注意すべきポイントが押さえてある。

・大枚はたいて(多額の投資をして)作ったシステムが使われない
・会議で説明されたシステム化による効果が実現しない
・現行システムで問題なく経営しているのに、大金を投じてシステム更改する

みたいな失敗は、どこでもあるのだ。その一つ一つを丁寧に要素分解していった本がこれ。

・試行錯誤段階にある未成熟な業務を支えるITシステムは、自分ですぐに作れて捨てても惜しくない安上がりなものが一番。エクセルなどはうってつけのツール。請求入金・支払いのように確立して固定化したものと、発売予測シミュレーションのように試行錯誤段階にあるものが混在している。後者を堅牢なシステムで作ると間違いなく失敗する。
・システム更新について、経営層の多くは、何をどう老朽化したかの説明を受けずに意思決定を求められている。現場の起案内容は往々にして過剰投資を求めている。保守切れはソフトウェアを入れ替える十分条件ではない。
・システム部門は基本的に褒められない組織。システム障害やシステム開発スピードに槍玉にあがることはあれど、コスト抑制しても評価されない。人員も不足気味なので、基本的にコスト優先は最優先のミッションとはされない。
・システム投資の大半は計画通りには効果を実現できていない。端数が積み上がって相当の人的コストが削減できるように机上で計算されることがある(実際にはその場合拠点を集約しないとコスト削減にはならないが、そこまでの改革にはいかないので、結果的には割高になる)
・業務改革とITシステム改革を同時に行うことはコストもリスクも高い。
・ユーザー部門は「現行保証」を求める傾向にあるが、業績管理の帳票はもっとも無駄が多い。減らせるものは減らす。
・経営陣は、システム開発のプロジェクトを立ちあげると、システム構築期間中は安心してしまって、みなくなるけれども、開発は期間が長い。
・PMO(プログラム・マネジメント・オフィス)の長短。統制チームが力不足だと、現場チームは面従腹背になりコントロールが効かなくなる。
・経営層と開発現場の間には多かれ少なかれコミュニケーションの溝がある
・プロジェクト状況を正しく報告したシステム部門に対してなんとかしろと叱りつけることは、なんの解決にもならない(叱ると、遅延が報告されなくなる)。システム構築を予算内でスケジュール通りに完遂するのは簡単なことではなくメンバーの苦労も大きい
・カスタマイズで対応の罠(ベンダーにカスタマイズ要望を出す方が楽。ただしコスト面ではデメリット大きい)
・「一番安い」に飛びついて、結果的に高くつく

まだまだあるが、本の内容をすべて書くわけにはいかない。
難しい文体ではないが、ふわっとさらっと読める本でもない。
システム開発とかシステム部門の人間にとっては、具体的な話も一切なく、はがゆい内容かもしれない。
なのでこれは、経営陣(ITそのものに携わっていない人間)にとって書かれた本だ。
経営陣にとっての、システム部門、業務IT化の「トリセツ」と考えるといいと思う。

私は医者なので、医療界の話ばかりが頭に浮かんだ。
医師会のシステム・IT担当とかそういう人は読んでおくといいだろう。そのほかの分野の人にも役に立つはずだ。