半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

『歴史を考えるヒント』網野善彦

オススメ度 80点

歴史を考えるヒント (新潮文庫)

歴史を考えるヒント (新潮文庫)

いってみれば、司馬遼太郎の『この国のかたち』の網野善彦版、というところか。
網野善彦の入門編、とでもいいますか。

* * *

高校時代の日本史教師の倉石先生は、教科書にない結構学問的に深い話をしてくれたのだが、その時に名前は出なかったが、あとで振り返ってみれば、網野史観的な考えも結構紹介してくれていたように思う。

網野善彦氏は日本歴史の常識を書き換えたいろいろ偉い人。
しかしエピゴーネンが沢山現れた点では、功罪半ばするところもあるかも。

この本はわかりやすい網野善彦の紹介という感じ。
めっちゃ読みやすくしているし。字も大きい。
なんとなく思っている「常識」について、わかりやすく紹介してくれている。

・我々が漠然と思っている「日本」の境界や時代設定は、案外動的なものであるということ。
・「島国」と考えている日本列島は、北や南と連続しており、さまざまな文化の流入交流が起こっていること。
・西日本と朝鮮半島南部の社会は類似点が大きい(特に被差別部落の問題などは共通点が大きい)
南北朝の時代、中国地方の中心は鞆であったこと。
・庶民、常民、人民、市民、土民、土民などの言葉の概念について。
・「百姓」という言葉のニュアンスの違いについて。(この話は網野史観の中では有名なポイント)
・「不自由民」被差別民について(これも)
・商業用語について(市・手形・切符)

こうして振り返ってみると、網野史学の入門編以外の何者でもないな。

ここから、よりディープな網野本に分け入っていくと、大層めんどくさいマンに進化できること請け合いだろうと思う。西洋文化と混交した我々現代日本人の思考様式は、やはり当時の人間の考えとは根本的には違うとは思うけど、そこを丹念に掘り下げてゆくのは難しくも面白い。
現代日本人にも古来の日本人からの考え方が色濃く受け継がれているけど、そこは案外言語化されていないので。

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ところで、司馬遼太郎の『この国のかたち』は、司馬史観のわかりやすい紹介、知的好奇心の喚起という意味では一定の意義があると思うが、日本史をきちんとやっている人からすると、どう受け止められるんでしょうかね。
「まー大体いいこと言っているけど細かいところもやっとするなー」みたいな感じか?
芸能人が出した健康本に対して医者が抱く感情と同じだったら、そんな感じかも。