- 作者: 司馬遼太郎,横山明
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2008/02/23
- メディア: 文庫
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豊臣秀吉の周囲(特に血縁者)の人物列伝という体裁をとっている連作短編集。とはいえ、これって、要するに 非AをもってAを語るというか、補集合を埋めることによって、描きたいのは当の秀吉本人なんだろうな。川上弘美「ニシノユキヒコの恋と冒険」に、少し似ているのだろうか。
第1話から順に、
「殺生関白(=三好秀次)」
「金吾中納言(=小早川秀秋)」
「宇喜多秀家」
「北ノ政所」
「大和大納言(=羽柴秀長)」
「駿河御前」
「結城秀康」
「八条宮」
「淀殿・その子」
秀次と金吾中納言の卑小さにげんなりしたところで、宇喜多秀家のいじらしさに少し溜飲をさげたところで、北の政所。寧々は最も長く豊臣秀吉と過ごしたのに、徳川家康への政権交代に陰ながら助力している(しかも、司馬遼太郎は「人生においてその後も後悔した風もみられない」と敢えて書いている。むしろそれを原点に性格構築をしているように見える。司馬遼太郎の本はあまりに「見てきたかのような嘘」が多いので、みんなああいう性格であると思い込ませるリアリティがあるが、基本、性格付けなどは司馬の手による、ということは最近ではあまり省みられることさえも少ない)。
ついで、大和大納言のいじましさ。僕この人好きだな。こういう人になりたいけれど、僕の与えられたポジションはそうはさせてくれない。
駿河御前・八条宮・結城秀康、この辺りは、翻弄される人々だ。
そして淀殿・秀頼。豊臣政権の最期っぷりは、はっきりいって愚かしいと思うが、司馬の筆致は、淀殿を一言で「気の利かない女性」としてばっさり。小気味よいくらいに愚かしく書いている。
滅びる側を書いているので、後味がよかろうはずはないのだが、読後感がダウナーもいいところではある。しかし並べる順番もだいぶ影響していると思う。たとえば、こう並べ替えてみるとどうだろう。
「駿河御前」
「殺生関白(=三好秀次)」
「金吾中納言(=小早川秀秋)」
「八条宮」
「淀殿・その子」
「結城秀康」
「宇喜多秀家」
「大和大納言(=羽柴秀長)」
「北ノ政所」
これはこれでポジティブじゃない?
あと、司馬遼太郎が石田三成を肯定的に書いているのをみたことがないが、おそらく豊臣政権末期の文治系武官(五奉行)の体制と、太平洋戦争における陸軍参謀本部とをアナロジカルにみている可能性はあるね。そりゃ嫌いなはずだ。ただ、この近江系の文官を登用したのは、秀長なんだよね…
この本で、秀長のことが気になっていたのだと思うが、別のルートで買った本がこれだった。別に豊臣秀長のことを調べようと言うわけではないのだが。