半熟三昧(本とか音楽とか)

半熟ドクター(とはいえ気がつくと医師20年選手だけど)の読んだ本とか音楽とか

オリガ・モリゾウナの反語法とツェベクマ

あー、気が付くと二ヶ月以上あけちゃいましたね…

草原の記 (新潮文庫)

草原の記 (新潮文庫)

オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)

オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)

去年から自分の中で米原万里のプチブームがあった(というか、ある)。
米原万里女史の作品を最初に読んだのは、確か『ガセネッタ・シモネッタ』だった。
面白かった。けど、それからは雑誌に連載されるコラムを拾い読む、もしくは他のエッセイストが米原女史との交流を書いているのを仄聞するくらいで、女史の作品をどんどん読む気があまりおこらなかった。
『ガセネッタ・シモネッタ』は面白く書いているけれども、目が笑っていないような、なんとなく踏み込みにくい印象があって。一見柔らかそうにみえて、噛み下すのに力がいる食べ物に似ているのだろうか。どうも近づきにくくはあった。

しかしそうやって遠巻きにしているうちに癌を患って亡くなられてしまわれた。
亡くなられたのが2006年。

それから随分米原女史のことを忘れていた。
ここ一・二年、Kindleで本を読むようになった。そうすると、本を読了すると、自分の読書の傾向を踏まえて「これなんかどうですか?」とAmazonが別の本を薦めてきます。
そうやってAmazonオススメの中の一人に米原女史があり、再び故・米原女史は自分の前に現れたわけです。今、Kindleの中を再検索してみると『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』『オリガ・モリゾウナの反語法』『旅行者の朝食』『打ちのめされるようなすごい本』があります。ここ半年で、それなりのペースで読んでます。

『オリガ・モリゾウナ』はつい最近読んだのだが、なんでもっと早くに読んでおかなかったかと後悔した。
多分、ガセネッタ・シモネッタでなく、オリガ・モリゾウナか嘘つきアーニャから米原万里を読み始めたら、もっと生きてるうちに米原女史の本を楽しめたと思う。
 でもそしたら、間違った癌療法で迷走していた米原女史をリアルタイムで体感することになるわけで、それはそれでつらいかもしれない。

 * * * 

 出張中だったのだが、旅先でなんとなく読むにはハズレがない司馬遼太郎の中で、この度は『草原の記』をチョイスした。これはモンゴルについての、旅行記というか随想集というか、とにかくそういうやつの中間。なんともいえない、いかにも司馬遼太郎っぽい作品なのだが、そこに旅行のアテンドするツェベクマさんという人がでてきた。

オリガ・モリゾウナはロシア語の翻訳家の主人公がプラハの高校時代に教わったオリガ・モリゾウナという女性の数奇な一生を遡って探索するという体裁なのだが、ウランバートルにお住まいのツェベクマさんという女性の一生もそれにまけず劣らず数奇で、運命に翻弄されている。こと、ノンフィクションであることを考えればむしろ凄まじいと感じた。

ロシア革命からソ連共産主義への転換という激動の時代は、われわれにとっては鉄のカーテンの向こうで、今ひとつ馴染みがないが、国が滅びる、イデオロギーが変わる、多民族の混交とはこういうことなんだなあと感じる。いや所詮本で感じているだけなんだけれども、あくまでも暑い出張先の気候の中で、冷え冷えしたユーラシアのことを思った。